ギターエフェクターで使える!電子回路図特集
この記事ではギターエフェクターでよく使うオペアンプの実例回路を紹介していく。
自分は、いろいろなエフェクター回路を参考した中、音色変化の楽しさよりも電子回路の仕組みに興味を持ってしまった。できるだけ最小単位に分けて、回路を解説している。だから、回路の役割や働きを理解しやすいと思う。
そもそもどんな複雑な回路でも、所詮は小さな電子回路の集まりだ。だから小さな単位で回路の働きを理解するのは、きっと大規模な回路を設計するときに役立つだろう。そういうことで、自分だけのオリジナルエフェクターを作りたい人は、この記事をぜひ参考に。
バッファー回路
こちらの回路は もっとも簡単なFET1石バッファー回路〜究極のナチュラルサウンドを求めて、その4 で作ったバッファー回路。バイポーラトランジスタ版やオペアンプ版もある。
ギターやベースなどのピックアップは出力インピーダンスが高いため、電圧は取り出せても電流を取り出せない。 だから、ピックアップの出力を受け取ってエフェクト処理するためには、入力インピーダンスが十分に高いバッファー回路をはさむ必要がある。この回路は、バッファー回路と呼ばれている。緩衝器という意味。
上の回路図は、とてもよく使われるバッファー回路。信号レベルが少しだけ落ちるが、出力インピーダンスを下げることができる。エフェクタなどに使う分には十分な回路。ちなみに、インピーダンスを下げるというのは「電流を増幅する」とも言える。信号からの電流が少なすぎると、思い通りの回路の動作ができなくなる。そういうわけで、ハイインピーダンスで受けて、ローインピーダンスで出力するというのが約束事のようになっている。
DIなんかもバッファー回路の応用といえる。昔の人は半導体なんて使わず、トランスのパッシブDIを使っていた。
また、ローインピーダンスをハイインピーダンスに逆変換するリバースDIなんてのもある。
バッファー回路はさまざまなところで使われている。音色変化が乏しく(というか音色を変化させてはいけない)地味な回路だが、超重要。バッファー回路によっても、音質は確かに異なる。ホントかどうかは、 オペアンプの音質比較 5種類+1 一番音質が良いのはどれか!?〜究極のナチュラルサウンドを求めて、その3 の記事で確かめてもらいたい。
2SK30Aの代替品
ところで、FETは2SK30Aの他に2SK303や2SK369に代替が可能。ただし、FETの端子は統一されていない。この表のように、端子の割り当てはどれも違っているので注意しよう。
FET | 端子(1、2、3の順) |
---|---|
2SK30A | S G D |
2SK303 | G S D |
2SK369 | D G S |
非反転増幅回路
オペアンプによる非反転増幅回路である。「非反転」のややこしい名前がついているが、要するに位相は変えずに信号レベルだけを増幅する回路。
増幅率は、抵抗RsとRfによって決まり、次の式で簡単に求められる。
$$ A = \frac{Rs + Rf} {Rs} $$たとえばRs=10kΩ、Rf=100kΩの場合、上の式に当てはめて計算すると11倍の増幅率となる。Rinは入力インピーダンスとなる抵抗。また単一電源で動かす場合は、RsとRinにつながっているアースをバイアス電位に接続する。
位相反転回路(インバータ)
今度は位相反転回路(インバータ)の紹介。
非反転増幅回路と少し違い、RsとRfの比でゲインが決まる。入力信号と出力信号は位相が反転しているので注意。
$$ A = \frac{Rf} {Rs} $$RsとRfを同じ値にすると、信号レベルは変わらず位相だけを反転させられる。出力インピーダンスを下げる役割もあるので、反転のボルテージフォロワと言えよう。また、Rcはドリフト成分を最小限に収めるための抵抗で、RsとRfの並列合成値に設定するのがよい。
Rsの値が入力インピーダンスとなるので注意。なぜ入力インピーダンスとなるかは、イマジナル・ショートを理解する必要があるため、ここでの説明は省く。
トレモロ回路
トレモロの原理
ギターエフェクターで使われるトレモロ(振幅変調)の原理を紹介する。
トレモロとは、音量の上げ下げを素早く行って特殊な効果音を得るエフェクタだ。これをオペアンプで実現するには反転増幅回路が使える。
増幅回路は、RsとRfの抵抗値でゲインが決まるのだった。
$$ A = \frac{Rs + Rf} {Rs} $$たとえばRfの抵抗値を何らかの方法で周期的に変えることができれば、音量変化させることができ、トレモロ効果が得られるはず。
そして、抵抗値が入力信号によって変わる素子がフォトカプラーである。
フォトカプラーとは、LEDと光センサのCdSが、向かい合ってパッケージされたものだ。実はこれ自分でも簡単に作れてしまう。もし余っているCdSがあれば試してみるとおもしろい。
さて、フォトカプラーの中のLEDを明るくすればCdSの抵抗値は下がり(数100Ω〜数kΩ)、逆にLEDを暗くすればCdSの抵抗値は上がる(数十MΩ)。だからさきほどの反転増幅回路のRfにはフォトカプラーが使える。
ちなみに、振幅変調は英語で「Amplitude Modulation」。AMラジオのAMは振幅変調である。トレモロ回路もその仲間と言って良いかもしれない。
トレモロ回路の実践
トレモロの原理で説明した増幅回路を、LFO(Low Frequency Oscillator)で制御すればトレモロ効果が得られるはずだ。
ところで反転増幅回路を採用した理由は、非反転増幅回路だと1倍以上の増幅からの変化になってしまうからだ。反転増幅回路なら、簡単に0〜1倍の間で音量を変化させられる。そしてこちらが今回考えてみたトレモロ回路。
ギター入力の場合はこの回路の全段にバッファー回路を入れておこう。全段のオペアンプは入力と出力の位相を同じにするためのインバーター。位相を気にしないのであれば、オペアンプのバッファー回路に置き換えても良いかもしれない。
回路図のRfにフォトカプラーのCdSをつなぐ。Rfと並列につないでいる47kΩの抵抗は、増幅率が大きくなりすぎないようにするため。ここではLFO回路の部分は省略する。
さて、実際にトレモロ回路を組み上げて、ギターを録音してみたので参考に。 自作トレモロ回路の音
LEDドライブ回路
フォトカプラー内のLEDを点灯させるためのLEDドライブ回路を紹介する。
この回路は、電流制御を電圧信号で行える回路といってよい。AnodeとGND間にLEDを接続する。ただし注意としてLEDと直列に1kΩくらいの抵抗を入れるのを忘れずに。そうしないとLEDが壊れてしまう。また、上の回路ではバイアス電圧を可変抵抗で調整できる様にしている。バイアス電位を変えることで、LEDの明るさの中心点を変更できるのだ。
リングモジュレータ
トレモロ回路の原理を応用するとリングモジュレータが作れる。
アクティブローパスフィルタ回路
この回路は2次のローパスフィルタ(LPF)であり、-12dB/octで減衰する。カットオフ周波数は200kHz程度まで可能だ。コンデンサーの0.02μと0.01μがペアになっていて、二倍の関係になるように調節すると、その中間値の0.015μFが理論上のCとなる。私は可変抵抗を2連の50kΩにして組んだ。
$$ fc = \frac{1} {2πCR} $$ギターやベースで使える、実用的なLPFを作ってみたのでこちらの記事も参考に。また、同様な仕組みでハイパスフィルタ(HPF)も作れる。
クリッピング回路
歪み系エフェクターで使われるダイオードを使ったクリッピング回路だ。オーバードライブ、ディストーション、ファズに明確な定義があるわけではないが、一応ディストーションとオーバードライブはクリッピングダイオードを入れる位置に違いがあるようだ。
ディストーション
ダイオードの順方向電圧Vfを超えた瞬間にダイオードが音になり、信号がクリップされる。シリコンダイオードだとVfは0.6V程度、ゲルマニウムダイオードだと0.3V程度である。よって、クリップされる前の信号レベルが重要になる。 音色としては、シリコンがノイジーな感じで、ゲルマニウムはまろやかな印象。
オーバードライブ
この回路は、非反転増幅回路として考えるとわかりやすい。たとえばシリコンダイオードを使った場合、出力信号が0.6V以下ならダイオードがオフの状態なので信号は過増幅される。また、出力信号が0.6V以上になった瞬間ダイオードがオンになって、増幅率が急激に下がる仕組み。結果的にディストーションと同様、クリップされた信号になる。 BOSSのオーバードライブなんかも、心臓部はこの手の回路になっている。 オペアンプ1石で作るオーバードライブ【自作エフェクタ製作】 では、とてもシンプルな実用的オーバードライブを作ってみた。
ファズ
こちらはFuzz Faceに使われている有名な回路。元祖はPNPのゲルマニウムトランジスタを使っていたようだが入手困難なため、2SC1815のシリコントランジスタを使用している。ダイオードを使わずに、2つのトランジスタでか増幅させて信号をクリップしている。 NPNシリコントランジスタで作る!Fuzz Face|2SC1815とBC108で自作エフェクター の記事では、Fuzz Faceの音質の秘密に迫ってみた。
倍音発生回路(オクターバ)
こちらは、理想ダイオードを利用した全波整流回路で「絶対値回路」と呼ばれるもの。単一電源の場合ではバイアス回路は設けず、GNDを基準にする。
たとえば、正弦波の信号を全波整流すると1オクターブ上がった音に聞こえる。つまり、オクターバのような効果が得られる。
エフェクター回路では、トランジスタで組むのが一般的のようだ。トランジスタでは、次の回路図のようにC-E分割で行う。
前段のトランジスタは、そのままの信号と位相が反転した信号を同時に作り出すC-E分割回路。その後、2つのペアになった差動回路を通ると周波数が2倍になって出てくる。
これらの倍音発生回路がエフェクターに使われる理由は、歪み系エフェクターでの奇数倍音と偶数倍音の考え方にあるようだ。 信号を単純にクリップすると矩形波に近づくのは想像できると思う。実は、この矩形波の信号は奇数倍音を多く含んでいる。というか、無限大の奇数倍音を足し算したものが矩形波になると考えられている。ここら辺は、フーリエ変換の記事の最後の方で触れている。
奇数倍音だけだと、物足りない、歪みがキツすぎる。そういうわけで、強制的に偶数倍音を多く含ませてから歪ませると、単純にクリップした回路と一味違った音色が作れるというわけ。こちらの記事も参考に。
自作4連フォトカプラ
フェイザーエフェクターの回路をみると4つのフェイザー回路を使って位相を360°変化させている。このためフォトカプラーを4つ使うことになるのだが、ふとおもしろいアイデアを思いついた。
ひとつのLEDで4つのCdSを制御するフォトカプラを作れないだろうか?
早速やってみることに。回路は次の様になる。
LEDは光分散のためスモークタイプの3mm赤色LED 70°を使った。CdSは1MタイプのCdSセル(1MΩ)GL5528を使った。
4つのCdSを向かい合わせて並べ、その中心にLEDを配置して半田付けをする。LEDには保護抵抗100Ωを付けている。抵抗なしでLEDをうっかり点灯させてしまうと壊れる可能性があるからだ。(実際すでに自作フォトカプラーを壊してしまった。)
CdSは少しの光でも反応するので外部の光をきっちり遮断するのが大切だ。LEDとCdSの間に少し空間を残し、黒のホットボンドでパッケージ化した。
4連のフォトカプラーのでき上がり。
ところでフォトカプラーは英語でPhotocouplerである。couplerはcoupleの「対」の意味で、LEDと光センサが対になっているからだろう。
そこでこの4連のフォトカプラーを「Photoquadrupler(フォトクアッドルプラー)」と命名した。(couple → tripple → quadrupleより。)
Photoquadruplerの性能測定
フォトクアッドルプラーの出力抵抗値を測定してみた。ただし先ほど制作したLEDドライバーでLEDを点灯させている。また、LEDは1kΩの抵抗を挟んでいる。
測定結果はこちら。1.5VあたりからLEDが点灯している。
グラフに表すと次の様になる。
各CdSの出力にばらつきはあるが、エフェクタ 用途ではこの性能で十分だった。4V以降は電圧を上げても抵抗値があまり変わらないので、1.8Vから4Vの範囲で入力電圧を設計するのが良さそうだ。そのとき抵抗値は1kΩ〜2kΩから20kΩ〜40kΩの変化となる。
他にも紹介したいエフェクター回路が山ほどある。 エフェクタ記事一覧ページ
アナログ開発環境のアイデア
怠け者な私?は共通部分の回路を使いまわせないだろうかと考た。エフェクター回路に触れてみればわかると思うが、バッファーや増幅回路、クリッピングやミキサーなど共通の回路が結構多いもだ。プログラミングだったら関数やクラス化するように、電子回路でも使いまわせる単位にできるのではないだろうかと。そこで写真の様に使いまわせそうな回路を小さな単位でモジュール化してみることにした。
モジュールの入れ替えを可能にするため、ピンの配線はできるだけ統一した。モジュール化は入れ替え可能の便利さだけでなく、何か不具合があっても原因を見つけやすいメリットがある。
配線方法はちょっと変わっているかもしれない。エッチングでプリント基板を製作し、ランド法による半田付けを採用した。
怠け者な私だから、ピンバイスでの穴あけ作業がとても億劫だった。ところが、ランド法なら穴あけ作業を省ける。また、配線図も上からみてわかりやすいメリットがある。さらに裏面はキレイな平らになるので、そこへシールを貼り付けコメントを書き込めるのだ。
しかし、この方法だと強度に不安が残る。モジュールをそのまま過酷な現場のエフェクターに実装するには危険だろう。足で力任せに踏みつけられるエフェクタ達。もしマネするようなことがあれば、あくまで実験ボード上での使用をおすすめしておく。