オペアンプの音質比較 5種類+1 一番音質が良いのはどれか!?〜究極のナチュラルサウンドを求めて、その3
自作エフェクターや音響機材の製作で昔から広く使われているオペアンプが、5532・4558・TL072の3つです。どのオペアンプも低価格で入手しやすくなってます。でも、どのオペアンプが一番音が良いのか比較したことはありますでしょうか?気になりますよね。
今回はそんな悩みを解決するべく、実際にそれぞれのオペアンプでバッファー回路を組み、ベース録音で比較してみました。さらに082、2114のオペアンプも加え、 山水のトランスST-14で作ったパッシブDI とも音質を比較します。
ギターで比較しないの?と思われるかも知れませんが、ベースは超低音域から豊かな倍音が高域まで広い幅の周波数が含まれてますので、音質を比較するには良い楽器です。動画でもご視聴いただけますので、ぜひ最後までご覧ください。
はじめに
エフェクターや音響機材の電子工作をやっていると、オペアンプによる音質の違いを知りたくなりますよね?実のところ、試聴比較するまで私は大した違いはないだろうと高を括ってました。数メガを扱う高周波じゃないんだから、音質なんてどれも変わりっこない。
しかし今回の実験で驚くほど音質が違うことが分かりました!オペアンプというかバッファー回路は侮れません!
こちらの動画でオペアンプによる違いを実験した動画を紹介します。今回組んだ回路を使ってベースで演奏してみました。ヘッドホンでご視聴になれば、はっきりと音質の違いが分かります。
使うもの
今回の企画で使ったものをご紹介します。
オペアンプ
JRC072D、TL082L、JRC4558DD、JRC5532DD、JRC2114DDのオペアンプとSANSUI ST-14のトランスを使いました。
電子部品
その他、抵抗やコンデンサが各種必要になります。具体的な値は、後ほど紹介する回路図をご覧ください。
録音機材
録音機材はこちらのZOOM H5を使いました。ハンディタイプのコンパクトな機材ですが、高音質でプロ機材の本格的な録音が可能です。ただし、ギターなどのハイインピーダンス楽器を直接入力することができませんので、今回製作するバッファー回路をDI(ダイレクトボックス)として低インピーダンス信号に変化して入力しました。H5はUSBのオーディオインタフェース機能も備わっていて万能です。
ベース
楽器はSTEINBERGERのベースを使いました。内蔵アンプはなくパッシブ出力なので、今回のバッファー回路の音質を大きく影響受けます。
オペアンプで作るバッファー回路
ここからは実際に作ったバッファー回路を紹介します。オペアンプに合わせて、2つのタイプのバッファー回路を用意しました。
072・082・4558用のバッファー回路
次は072や082、4558用のバッファー回路図です。
記号 | 型番または値 | 部品名 | 数量 | 備考 |
---|---|---|---|---|
C1 | 0.1uF | フィルムコンデンサ | 1個 | 104 |
C2 | 10uF | 電解コンデンサ | 1個 | 極性あり |
C3 | 1uF | 積層セラミックコンデンサ | 1個 | 105 |
R1、R2 | 1MΩ | カーボン抵抗 | 2個 | 茶黒緑金 |
R3、R4、R5 | 100kΩ | カーボン抵抗 | 3個 | 茶黒黄金 |
U1 | JRC072D | オペアンプ | 1個 | |
U1 | 8P | 丸ピICソケット | 1個 |
シンプルなボルテージフォロワのバッファー回路になります。072や4558は入力インピーダンスが高く(入力インピーダンスが数MΩ)、ギターなどのハイインピーダンス出力を直接受けることができます。ですから、072、082、4558などのオペアンプが入れ替え可能です。
左下のオペアンプは、単一電源から安定した仮想GNDを作るためのものです。
この回路では、入力段に2つの抵抗(1MΩ)が入っているので並列合成されて入力インピーダンスは500kΩとなります。 さて、先に紹介した録音機材ZOOM H5の入力インピーダンスが1.8kΩと低めです。ですから出力のカップリングコンデンサを大きめの10μFに設定しました。この時のカットオフ周波数はfc=8Hzの計算になります。
下の写真のように、基板を手作りしてバッファーエフェクターモジュールを作ってみました。
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5532・2114用のバッファー回路
次に5532や2114を使ったバッファー回路をご紹介いたします。実は、5532の入力インピーダンスは4558などと違って数百kΩ以下と低めです。ですから、ギターやベースなどのハイインピーダンス信号を直接受けることができません。音質劣化してしまいます。そこで、前段にFETのバッファー回路を設けることにしました。
FETは2SK303以外にも2SK30Aなどが使えます。ただしFETのピン端子の並びはそれぞれ異なるのでご注意ください。R4、R6は保護抵抗です。なくても動作はしますが、音質にほぼ影響ありませんのであった方が安心です。 左下の仮想グランドの分圧抵抗は、5532の入力インピーダンスの低さから高い抵抗が使えません。先達に倣い、4.7kΩや6.8kΩ程度の抵抗を使うと良さそうです。
5532を使ったバッファーエフェクターは、下記の記事でも詳しく解説してますのでご覧ください。
▼ 両電源を使ってカップリングコンデンサを取り除いた究極バッファ
オペアンプによる音質の違い
こちらの動画をご覧になった方は、それぞれのオペアンプの音質の違いがお分かりいただけましたでしょうか?ここからは、私が感じたオペアンプとトランスを使ったバッファー回路の音質の違いを述べます。
動画内でも解説してますが、以下が自分の感じた印象です。
部品名 | 音質 |
---|---|
JRC072D | きらびやか、派手 |
TL082L | ずっしり重い |
JRC4558DD | こもり気味、まとまりが良い |
JRC5532DD | 音が太い、ゴリゴリ、ブリブリ |
JRC2114DD | ずっしり重い、高級感がある |
SANSUI ST-14 | 自然な迫力、アコースティック感あり |
どのオペアンプが良いというのは使い方によって違ってきます。4558なんかは音が悪いという考えもありますが、ビンテージ感やオールド感といった観点から見れば良い素子です。072はベースだと少しうるさく感じますが、ギターなどに使えばきらびやかでキレイなはずです。5532は音響機材で定番なオペアンプなので安定感があります。さらに2114は高級感のある音質を感じました。5532を超えているかも!? さて、意外だったのがサンスイのトランスST-14です。オペアンプに負けてしまうかなと思ったのですが、全然そんなことはなく、自然な迫力のあるサウンドでこの中では一番好きかも知れません。
ちなみにST-14を使ったパッシブDIの作り方を記事にしてます。
▼ ST-14をケースに収めたパッシブDIも販売中です!
トランスのみの回路なので無電源で動作します。アンバランス入力をバランス出力に変え、ハイインピーダンスをローインピーダンスへ変換してくれます。
使ったオペアンプの仕様
最後に、今回使ったオペアンプの仕様を簡単にまとめておきます。
部品名 | 入力素子 | スルーレート(V/μs) |
---|---|---|
JRC072D | JFET | 20 |
TL082L | JFET | 16 |
JRC4558DD | バイポーラ | 1 |
JRC5532DD | バイポーラ | 8 |
JRC2114DD | バイポーラ | 15 |
SANSUI ST-14 | トランス | ? |
スルーレートSR(Slew Rate)とは立ち上がりの速さを表します。この値が高ければ高いほど、入力信号の形を保ったまま高域までキレイに増幅できることになります。がしかし、決して「スルーレートが高い」=「音が良い」とはならないところがアナログ回路の面白いところでもあります。
5532や2114は600Ωの高負荷もドライブできるオペアンプです。逆に072や4558では、性能をフル発揮するには負荷は2kΩ以上欲しいところです。
最後に
オペアンプによってこれほど音質が変わることを知ったので良い体験でした。今後のエフェクター制作に役立つ経験でした。とくに現在では廃れつつあるトランスの音が良かったのには驚きでした。これからもっと使ってみたいです。
▼ 072、4558、5532に限定して音質比較した動画も人気です。
▼ 5532のバッファーエフェクターで、ドアーズの「Winter Love」を弾いてみた映像です。 【Bass Cover】Wintertime Love The Doors - YouTube