オペアンプ5532を使ったギター・ベースバッファー回路〜究極のナチュラルサウンドを求めて、その2
この記事では、ギターやベースで使えるバッファーエフェクターの作り方をご紹介いたします。オペアンプ5532を使用します。5532の入力インピーダンスはそれほど高くないため、ギターやベースなどのハイインピーダンス出力を直接繋ぐことはできません。そのためFETを前段に挟んで入力インピーダンスを高くする方法をご紹介してます。
バッファー回路とは
検索でこの記事に辿りついた方には釈迦に説法ですが、バッファー回路とは何か簡単に解説します。
ハイインピーダンスなピックアップ出力
ギターやベースなどのピックアップから出力される信号はとても弱い信号です。電圧は1Vppほどあるのですが、電流があまりありません。誤解を恐れずに言えば、この電流が少ない信号のことをハイインピーダンス信号と言ってます。 ハイインピーダンスはノイズに弱いとよく言われますが、外部ノイズのほとんどは本来は微弱電流なのですが、ハイインピーダンスの信号も電流が弱いので混在した時にノイズの影響力が大きくなると言った理由から来てます。
バッファー回路は電流増幅器
そこで電圧(信号)の大きさを変えずに、電流だけを増幅してあげれば良くない?と思って考えだされたのがバッファー回路なんですね。ですからバッファーは電流増幅器とも言えるでしょう。ちなみにバッファ(Buffer)は英語で緩衝器の意味です。電車同士の接続部分をBufferと言ったりします。
さて、音響機材の接続で当たり前のように行なっていることですが、ローインピーダンス出力をハイインピーダンス入力へ繋ぐことは良いのですが、その逆はNGです。つまり、ハイインピーダンス出力をローインピーダンス入力の音響機材などへ直接繋ごうとすると、電流が十分取り出せないので音質劣化が起こります。具体的には低音がスカスカだったり、なんかぺこぺこしたしょぼい音だったり音量が小さいといった感じの状況が起こります。そんな経験をされた方は多いのではないでしょうか?
バッファーを介して音質クリアに
そこでバッファー回路の登場です。ハイインピーダンス出力の楽器を、バッファーを通してローインピーダンス信号へ変換してから音響機材へ繋ぐことで見違えるほどクリアでスッキリした音になります。そんなバッファとしての役割で最も有名なのが、DI(ダイレクトボックス)ではないでしょうか?録音卓で必ず使われるDIは、アンバランス信号をバランス信号へ変換する役割も担ってます。
現代のエフェクターのほとんどがバッファ内蔵
また現代のエフェクターのほとんどが、最初の入力段にハイインピーダンスを入力できるようなバッファー回路が設けられてます。逆に古いエフェクターではそれほど入力インピーダンスが高くなく、楽器によって音色変化が大きく違うなんてことがあります。以前作った Fuzz Face も入力インピーダンスが低くめなので、ギターやボリューム調整によって大きく音色が変わってしまいます。むしろそれが人気だったりしますでしょうか。そういったエフェクターに、通常のバッファー回路を挟んでしまうと今度は歪みすぎるといった事態になりますからなかなか難しい話です。
使うもの
バッファー回路を作るにあたって、使うものをご紹介いたします。
オペアンプ5532
デュアルオペアンプの5532を使用します。5532は古くからあるオペアンプですが、高音質なのに低価格で手に入りやすく、今でもさまざまな音響機材で使われてます。
▼ トランジスタやFETを使ってもバッファー回路は作れます。
自作するのが大変な方はバッファーエフェクターも売られてますので、そちらを使うのもありです。
その他
その他に必要な電子部品は後述の回路図をご覧ください。
オペアンプ5532を使ったバッファーエフェクターの製作
回路図
下図は、オペアンプ5532を使ったギターやベースで使えるバッファーエフェクターの回路図です。画像をクリックすると拡大できます。
入力インピーダンスは入力段の2つの1MΩの抵抗並列合成なので、500kΩになります。出力インピーダンスはオペアンプなので100Ω以下になるようです。
FETの役割
最初にも触れた通り、5532の入力インピーダンスはギターを直で受けれるほど高くはありません。数百キロΩ程度だそうです。 4555やTL072 ではギター信号も直接受けれるのですが、5532の場合はちょっと厳しいです。そのため、前段のFETでハイインピーダンスを5532でも受け取れるようにローインピーダンス信号に変換してあげます。ここのFETには2SK303や2SK30Aなどが使用できます。ただし、FETのピン端子はG、D、Sの並びが統一されてないので配線にご注意ください。
ボルテージフォロワ
FETの次にありますオペアンプ回路がいわゆるバッファー回路になります。増幅率は1倍です。つまり音量を上げも下げもしません。電流だけ増強する回路です。この回路の形は一般的にボルテージフォロワと呼ばれてます。
カップリングコンデンサ
C1とC3はカップリングコンデンサと呼ばれるもので信号の直流成分を除去する役割があります。ここで紹介している回路図は、オペアンプを単一電源で動かしているため、カップリングコンデンサが必ず必要になります。このことは次のバイアスの話で説明いたします。
この回路の入力インピーダンスを500kΩとすれば、C1の0.1μFで生成されるカットオフ周波数は3.2Hzとなりますから、ギター信号を受け取るには十分すぎるコンデンサ容量です。
ここで言うカットオフ周波数とは簡単に言いますと、低音がカットされてしまう周波数のことです。正確には-3dB音量が下がる点です。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
また出力側のC3のコンデンサは、その後へ接続する機材の入力インピーダンスを考慮して容量を決定しなければなりません。一般的な録音機材などでは600Ω以上でしょうから、600kΩに合わせて10uFを選びました。その時のカットオフ周波数は26.6Hzとなります。
バイアス電源(仮想GND)回路
下側にあるもう1つのオペアンプは、安定したバイアス電位を作り出すためのものです。いわゆる仮想GNDと呼ばれてます。オペアンプで作ることにより、抵抗で分圧して作るものよりも安定した仮想GNDになります。 ただし、5532の入力インピーダンスは100kΩ以下にもなるそうですから、分圧抵抗の値を高くできません。4558や072などでは100kΩが使えましたが、ここでは6.8kΩとかなり低い値を取ってます。
基板の制作
銅箔をエッチングして基板を製作してみました。以前はレジストペンで蛇目基板を作っていたのですが、最近はKiCadでフットプリントを作って、レーザープリンタを使ったトナー転写で基板製作できるようになりました。ここではその様子をご紹介いたします。
エッチングペンを使った基板製作
2021年あたりで作っていた基板製作の様子です。この頃は手書きでフットプリントと言いますか配線パターンを作っていました。紙を使い何度も書き直しながら配線を合理的にしていきます。設計した回路図は上からみた図なので、レジストペンで基板に書くときは反転させなければなりません。そのためトレーシングペーパーを使って反転させると便利です。
最初はなかなか大変な作業でした。しかし、何度か書き直しているうちにコツを得て、合理的な配線の勘が働くようになります。パズル感覚で慣れるとなかなか楽しいものです。いきなりCADを使って基板製作するのは敷居が高いでしょうから、まずはレジストペンで蛇目基板からはじめらることをおすすめします。
トナー転写で基板製作
最近(2023年)は、KiCadでフットプリントを作成できるようになりました。その様子をご紹介いたしますのでご覧ください。下図はKiCadのフットプリントの画面です。穴の大きさなどは自分でカスタマイズしてます。
レーザープリンタの価格がグンと安くなり、身近になりました。基板に転写するだけならモノクロが安くておすすめです。私はブラザーのフルカラー(HL-L3230CDW)を使ってます。
レーザープリンタを持ってない頃、コンビニのレーザープリンタで転写をやったこともあります。
レーザープリンタのトナー印刷のインクはプラスチック粒子の集まりです。 Aitendoさんで販売されている転写シート を使うことで、基板にインクを移してエッチングを行います。下の写真のようにアイロン(PTCヒーターで代用)で押しつけることで、インクを銅板へ転写します。
キレイに転写できなかった部分はレジストペンで補正すればOKです。実はレジストペンの代わりにサクラの油性ペンでも代用できます。
あとはいつも通り腐食液に浸けてエッチングします。
エッチング完了した基板に残っているインクは、アセトンを使うとキレイに除去できます。
以下、完成したバッファー回路基板です。ご覧の通り、キレイに仕上がりました。
とてもクリーンなサウンドです。安定の5532といったところですね。
基板のオーダーメイドも承っております。下記フォームよりお気軽にご相談ください。
積層セラミックコンデンサは優れている
大塚明先生の書籍でコンデンサについて解説されてますが、セラミックコンデンサや積層セラミックコンデンサは、高周波特性に優れいていて性能が良いそうです。エフェクタや音響機材では嫌われがちなイメージですが、大きさが小さく安価でエフェクターに最適なコンデンサです。 一方でフィルムコンデンサの見た目はカッコ良く、高級感があって音が良さそうに思えます。しかし値段が高く、容量の割に大きいサイズになりがちなので結構使いずらかったりします。もちろん好みで選んでもらって構いません。これらのバッファー回路で聴き比べしてみました限りでは、私には音の違いが分かりませんでした(^_^;)
バッファーエフェクターーの音質
本記事で紹介した5532のバッファーエフェクターを使って、ドアーズの「Winter Love」をベースで演奏してみました。下記のYouTubeチャンネルからご視聴いただけます。 【Bass Cover】Wintertime Love The Doors - YouTube
録音方法は以下の通りです。
BASS(STEINBERGER)
↓
5532 Unbalance DI
↓
ZOOM H5
↓
GarageBand(Big Stack)
以前に作った自作パッシブDIよりも、5532のバッファー回路の方が音がパワフルな感じで好みです。パッシブDIの製作はこちらの記事でご紹介してます。
また、5532以外にもTL072や4558といった定番オペアンプを使ったバッファー回路で音質を比較してます。オペアンプによって驚くほど音が変わります!