トランスST-14でパッシブDIをつくろう!〜カンタンに作れる自作ダイレクトボックス
山水のトランス「ST-14」を使って自作ダイレクトボックスをつくってみましたので、そのようすをご紹介いたします。
ギターやベースなどの出力を、エフェクターを通さずに直接録音機材へ入力したかったため、今回ご紹介するダイレクトボックスを作ることになりました。写真のとおり、かなりコンパクトに作ることができました。トランスのみを使用してますので、無電源で動作するパッシブDIになります。
ぜひご参考になさってみてください。
つかうもの
この記事でつかうものをご紹介いたします。
サンスイのインプットトランスST-14
ギターなどのピックアップの出力は、数百kΩとインピーダンスが高いため、それに合ったトランスの選択が必要でした。また、私が使っている録音機材は、入力インピーダンスが1.8kΩでしたので、それ以下のローインピーダンスに変換してあげなければなりません。
ST-14のインピーダンスは次の通りですので、まさにこのトランスひとつで「パッシブDI」が作れるんじゃないだろうかと思ったわけです。
1次 | 2次 |
---|---|
500kΩ | 1kΩ |
巻数比は「22.4:1」です。
▼ 参考
エフェクタケース
小型サイズのエフェクタケースを使用しました。
端子
バランスアウトなるのでステレオフォンジャック(TRS)を使用しました。私はノイトリックのジャックを使用しましたが、ステレオフォンであれば他のものでも構いません。もちろん、XLRコネクタ(キャノンコネクタ)が理想的ですが、エフェクタケースが小型なためXLRコネクタは収まりませんでした。
パッシブDIの回路図
今回制作した自作ダイレクトボックスの回路図はこちらです。
トランスの配線だけ注意すれば、非常にカンタンに作れる機材です。もしも、バランスアウトでXLRコネクタを使いたい場合は、次のように置き換えてください。
信号 | TRS(ステレオフォン) | XLRコネクタ |
---|---|---|
HOT | Tip | 2番 |
COLD | Ring | 3番 |
GND | Sleeve | 1番 |
また、市販のDIのように「アンバランスアウト」や「GNDオープン」などの機能をつけても良いかもしれません。その代わり、コンパクトさは犠牲になりますが。
以下の写真のとおり、こんな感じで制作しました。
ステップドリルを使う場合は、怪我などに十分気をつけて作業してくださいね。
自作ダイレクトボックスによる音質比較【動画あり】
今回作ったダイレクトボックスを使って、ダイレクトボックス「あり」と「なし」でどれだけ音が違うのか比較して動画にしてみました。前半がダイレクトボックス「なし」での演奏で、後半が「あり」でのものになります。
録音機材
録音機材は、ZOOMのH5です。オーディオインターフェイスとしても使えるので、パソコンと接続してDAWにも使えます。ただし、入力インピーダンスは1.8kΩですので、動画のとおりギターなどのハイインピーダンス楽器を直接入力してしまうと、音質が大きく劣化します。
音色の比較
ダイレクトボックス「あり」ですと、高音が劣化せずドンシャリな音になりました。一方、ダイレクトボックス「なし」では、音がこもってしまいました。ギターのトーンコントロールがまったく効かないくらいこもってしまってます。これでは細かな音色づくりができませんよね。
逆に言えば、トーンコントロールが効くようであるならば、ダイレクトボックスは必要ないかもしれません。
ダイレクトボックス製品のご紹介
巷で有名なダイレクトボックスとして、カントリーマンのTYPE85や、BOSSのDI1が有名です。スタジオやライブハウスで、一度は見かけたこともあるのではないでしょうか?
高級品ですのでお財布に余裕がある方で、音質にこだわりたい方は、これらのダイレクトボックスを使ってみると良いと思います。
ちなみに、今回制作したパッシブDIは、材料費が3000円ほどかかりました。BehringerのパッシブDIであれば、その値段で買えてしまうのでこちらもご参考になさってみてください。
逆ダイレクトボックスもある!?
DIがあれば逆DIもある?
あるんですね。つまり、ローインピーダンス信号をわざわざギターのようなハイインピーダンス信号に変換する機材が。「リアンプ」や「リバースDI」という名前で売られています。
こんなものを一体なにに使うのって話ですが、多重録音などで使えます。録音した音源をライン出力からエフェクターにそのままつないでも、ギター信号と違ってキレイに音色変化が得られないことがあります。そこで「リアンプ」を通すと、ライン信号がギター信号に化けるので、キレイにエフェクトできるわけです。
ギターの演奏の生音をDAWに取り込んで、後からお気に入りのエフェクタを通すなんて時に使えます。
▼ そんな「リアンプ」も、今回使ったトランス「ST-14」で自作できます。興味のある方はこちらの記事もご参考になさってみてください。
ダイレクトボックス・DIとは?
ここからは、もう少し電気的な話をしてみますね。
ダイレクトボックスはDIとも呼ばれます。どちらも同じ意味ですが、DIは一応、ダイレクトインジェクションの略だそうです。なぜ2つの名前が混在しているのか諸説あるようですが、とにかくハイインピーダンスの信号をローインピーダンスに変換する役割をもっています。
最初にも述べましたが、ギターやベースなどのピックアップ出力は数百kΩのハイインピーダンスなので、そのまま機材へ入力してしまうと音が劣化してしまいます。そこでダイレクトボックスの登場なワケですね。
エフェクト処理をパソコンでやりたい場合に、生音で録音するといったケースがありますよね。オーディオインタフェースが、ギターなどの受けに対応していれば良いですが、そうでない場合もあります。ダイレクトボックスを通してローインピーダンスの信号に変換してあげると、本来の楽器の音が録音できるのでDAWなどでエフェクト処理を自由にできるようになります。
また、ライブハウスなどのPA卓(ミキシングコンソール)は、ギターやベースの音を直接受けられるようになっていません。ですから、楽器のライン入力を受ける場合は必ずダイレクトボクスを挟んで卓へ入力しています。
信号のローインピーダンス化であれば、他にもバッファ回路を使ってカンタンに実現できます。バッファ回路については以下の記事をご参考ください。
しかし、わざわざダイレクトボックスを使うメリットは他にもあるんですね。それは、アンバランス信号をバランス信号に変換して伝送できることです。
ライブハウスは、通常ステージからPA卓までの距離が長いため、アンバランス信号のままだと途中でノイズが乗ってしまうリスクがあります。バランス信号であればノイズが乗っても相殺できるため、長距離伝送に向いているんですね。
バランス伝送のお話
「バランス伝送ってなに?」な方へ、カンタンではありますがしくみを説明してみたいと思います。
バランス伝送は、3つの線で信号を送ります。1つは送りたい信号、もう1つはGND(アース)、そしてもう1つは、送りたい信号と位相を180度ずらした逆相の信号です。それぞれの信号は、HOT、GND、COLDと名付けられていて、まとめると表とおりです。
バランス伝送 | 信号 |
---|---|
HOT | 送りたい信号 |
COLD | 送りたい信号を逆相にした信号 |
GND | アース |
HOTとCOLDの信号を、電気信号の絵で表すと次のような形になります。
そしてここからがポイントなのですが、信号を受けとる側の機材で、COLDの位相を180度ずらし、元のHOT信号と同じ形に戻すのです。そして、HOTとCOLDを足し合わせて入力信号とします。ですから、下図のようにHOTの2倍の電圧が入力信号になります。
バランス伝送がノイズに強い理由
では、なぜこの信号がノイズに強いのでしょうか?
伝送する途中で、信号にノイズが混じったとします。ノイズ自体は、HOTとCOLDとも同じ位相で乗るはずです。
入力側の機材では、COLDを逆相にして、HOTとCOLDを足し合わるのでした。下図のように、COLDのノイズは位相が反転してしまいますから、HOT側のノイズと打ち消し合う形になります。よって、元の信号だけを伝送できるワケです。
このことが、バランス伝送がアンバランス伝送よりもノイズに強いと言われる理由になります。ちなみにバランス伝送は「平衡信号」などとも呼ばれます。
ここら辺のことは、大塚明先生の「サウンド・クリエイターのための電気実用講座」に詳しく書かれていますので、興味のある方はご参考になさってみてください。