AM Mixer(トレモロ・リングモジュレータ)【エフェクタ製作】

AM Mixerの音響実験
AM Mixerの音響実験

今回は、FETを使ってトレモロやリングモジュレータのような音響効果が得られる回路を作ってみた。トレモロもリングモジュレータも原理は振幅変調(AM)である。

リングモジュレータは、トランスとダイオードを使って振幅変調させているため部品選びに時間がかかる。一方でトレモロは、トランジスタやオペアンプなど入手しやすい部品で簡単に作ることができる。そこで今回は、FETを使ってトレモロ回路をつくってみた。

振幅変調の原理

振幅変調の原理
振幅変調の原理

トレモロもリングモジュレータもやっていることは一緒で、信号の掛け算である。

信号\(sinα\)を信号\(sinβ\)で振幅変調する場合、次のように三角関数の積和の公式が成り立つ。

$$sin{α}sin{β}=\frac{1}{2}\{sin(α+β)+sin(α-β)\}$$

つまり、この式のようにsin波の掛け算はsin波の足し算で表現できるのだ。

Pythonで振幅変調のシミュレーション

振幅変調された波形
振幅変調された波形

プログラミングだと簡単にシミュレーションできる。そこで、Pythonでsin波の掛け算をしてグラフにしてみた。

100Hzのsin波に5Hzのsin波を掛け合わせた結果が図の通りである。これは、5Hzの波によって100Hzの信号の振幅を変化していると考えることができる。よって、振幅変調(AM: Amplitude Modulation)と呼ばれるのである。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt


if __name__ == '__main__':

    rate = 44100
    T = np.arange(0, 0.2, 1 / rate)
    fa = 100  # 100Hz
    fb = 5  # 5Hz
    s = []
    for t in T:
        sin_a = np.sin(2 * np.pi * fa * t)
        sin_b = np.sin(2 * np.pi * fb * t)
        s.append(sin_a * sin_b)

    plt.plot(T, s)
    plt.xlabel('Time')
    plt.ylabel('Gain')
    plt.show()

FETでAM Mixer(トレモロ・リングモジュレータ)を作ってみよう!

AM Mixer回路図

AM Mixer回路図
AM Mixer回路図

こちらが今回製作したAM Mixer回路図である。

この回路は、エフェクタの電子回路でよく見かける形である。電子スイッチにも使われるし、フォトカプラの代用として入力信号に合わせた可変抵抗として利用される。

FETは2SK30Aの代用として使える2SK303を選んだ。もちろん2SK30Aでも良いが、端子の並び順がそれぞれ異なるので注意しよう。

FET 端子1端子2端子3
2SK30A SGD
2SK303 GSD
2SK369 DGS

ダイオードは小信号用であれば大抵代替できると思う。

回路図中の抵抗Rは100Ωから1kΩあたりが使える。抵抗値が小さいほど原音がミックスされやすくなる。

この回路、見ての通り無電源で動作する。ただし、入力信号のインピーダンスは十分低く、出力の接続先機材の入力インピーダンスは十分高いものでないと動作しない。よって、ギターのような楽器を直接繋ぐことは不可能である。その場合は、前段にバッファ回路を必ず入れることを付け加えておく。

2SK303データシートはこちらから。

動作原理

AM Mixerを簡略化した回路図
AM Mixerを簡略化した回路図

この回路の動作原理は至って簡単。先ほどの、AM Mixerを簡略化したのがこの回路図である。抵抗RとFETの抵抗によって入力電圧を分圧しているだけなのだ。だから抵抗Rが小さいほど、入力電圧と出力電圧が分圧されにくくなり、つまりは原音がミックスされやすくなるわけだ。

ちなみに、今回使用した2SKの番号のつくFETはNチャネルと呼ばれ、ゲートの電圧が大きいほどドレインソース間の電流が流れやすい性質をもつ。言い換えれば、ゲート電圧によってドレイン-ソース間の抵抗値が変化するのだ。

フォトカプラによる可変抵抗と違い、FETは高速で動作するのでLFOのような超低周波だけでなく、数キロHzまでの周波数の入力が可能になっている。つまりは、リングモジュレータのような使い方ができる筈。

さて、このAM Mixerをブレッドボードで使いやすいようにモジュール化して音響実験を行ってみた。

AM Mixerの音響実験

こちらの動画では、今回作ったAM Mixerモジュールを使って、ピアノ音源にいろいろな周波数の三角波を入力して振幅変調させてみたのでよかったら参考に。

ちなみにオシレータは前回作った三角波発生器を使用している。

動画では2つの可変抵抗を使っている。RATEに当たるのが、三角波の周波数を変化させる抵抗(ディケイドボックス)である。これは以前こちらの記事で製作したものだ。

また、DEEPTHは三角波の出力電圧をボリューム抵抗で分圧しているだけだ。

これらによって音色の印象を大きく変えることができる。

動画のように、オシレータの周波数がLFOのように数Hz程度の低周波ならゆらゆらしたトレモロの音になるし、数キロHzなら予想通りリングモジュレータのような金属音になっていく。

ただし、このAM Mixerモジュールではオシレータの周波数が高くなると音が歪んでしまって、あまりキレイな音でなくなる。Moogやエレハモのようなリングモジュレータ製品を作ろうと思ったら容易ではないのかもしれない。

とはいえ、用途によっては十分使えそうな回路なので参考にしてもらえれば幸いである。

追記(2021/3/10)

サンスイのトランスST-71を使って、本格的?なリングモジュレータを作ってみたのでよかったら参考に。この記事のFET版のAM変調より、キレイなサウンド効果が得られる。

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