電子工作の実験をメチャ便利にする『Decade Box』の制作
電子工作をやっていて、時々つらいと思うことがある。それはパラメーターをサクッと変えられないことだ。プログラミングならば数字をその場でちょこっとなんてのは、タイピングで数秒もかからない作業だ。(どこにそのパラメーターが設定されているかを探すのが大変だったりもするが) そこで電子工作でもすぐにパラメータを変えられるような「Decade Box」という大袈裟な可変抵抗器を作ってみることにした。
はじめに
以前AMラジオを作った時に、さらに研究を進めたいと思ったが手持ちの札があまりにも足りてないことに気付かされた。一番面倒なコイルのパラメーター以外にも、可変コンデンサや抵抗、ダイオードなどのさまざまなパラメーターが絡んでくる。ワニクリップ 式デバッグ、ブレッドボード式デバッグも大して効率よくないのではないのかと思い知らされる。つまり電子工作をやっていると、面倒な配線の切り替え作業に翻弄されてしまうのだ。
たとえば100kΩを500kΩにするケース。
当然1MΩを並列にすれば500kΩになるので楽勝ではあるが、まずは1MΩの抵抗を探さなければならない手間、管理的な問題がネックになる。さらに1MΩを並列にする作業の手間もかかる。ブレッドーボードでやっていれば比較的簡単だろうか?いやいや、穴の位置を間違えないように相当な神経を使うはずだ。ワニクリップ 式デバッグで大体済ませている私なんかは、抵抗をねじねじして「接触不良しないでね」って祈りをこめながらワニクリップ に挟むことになるだろう。懸命な方は、一度半田付けして確実に500Ω確定抵抗とするかもしれない。しかし、これらも一度や二度なら耐えられるが、毎度となるとやってらんない。「面倒くセー」ってなって投げ出してしまうだろう。
料理だと仕込みができていない状態。
こんな問題を解決したくて、たどり着いた案がディケイドボックス(Decade Box)。「Decade box resistor」でググれば楽しい画像がいろいろ出てくる。要は可変抵抗。きっとプロ達は、こういう機材を持っているに違いない。そこで、既製品を参考にロータリースイッチ式の抵抗のDecade Boxを作ってみた。
わざわざ作るのが面倒な方は、素直に製品を使おう。作ってみて分かったが、ディケイドボックスの製作は意外と高くつく。
Decade Boxの製作
ほとんどの人が醤油を作ることはしないが、醤油を使ったソースくらいは作ったことがあるだろう。たとえば「めんつゆ」だ。この蒸し暑い時期は、そうめんを食べたくなるもの。そこで鰹節と醤油、みりんでサクッと「めんつゆ」を作る。
電子工作に置いても、誰もが抵抗そのものを作ることはやらないだろう。たとえ紙に鉛筆で塗り塗りして数十kΩの抵抗は作れるとしても、精度の高い抵抗を破格の値段で買えるのだからそちらを選ぶはずだ。つまり抵抗が先ほどの醤油になる。そしたらこのDecade Boxは「めんつゆ」なのだ。目的のための手段の目的化。B to B製品とも言える。
良いものをつくるには、良い道具が欠かせない。目立たず地味な役割ではあるが、こういうものがあって主役が引き立つものだ。
後から読み返すと、なんのこっちゃいな。制作時期は夏で、暑かった💦
シャーシはLEAD社のS-9。抵抗とコンデンサのDecade Boxを作るので2つシャーシを購入。抵抗は1/4Wの金属皮膜抵抗、誤差1%以内。 シャーシを穴あけ後、紙に型取りをしてもう1つのシャーシを穴あけ。しかし気が緩んでいてい一部穴あけに失敗してしまった。 そして10Ωの抵抗の買い忘れに気づく。ロータリースイッチの線も頭を悩ます。結局1日では終わらず。しかし、こういう作業が一番楽しいかもしれない。
負荷抵抗の耐圧
Decade Boxを作っている時にしまったと思った。抵抗の耐圧(ワット数)を考慮していなかったのだ。使う電圧によっては低すぎる抵抗は使えない。
電力の計算式は次の通り。
$$P (W) = \frac{V ^ 2}{R}$$$$P (W) = R I ^ 2$$
これを元に理論値の計算表を作ってみ た。
たとえば9Vで見てみよう。1/4W耐圧の抵抗だと400Ωまでしか使えないことがこの表からわかる。「本当に耐圧以上の電圧はかけられないのだろうか?」さっそく1/4W耐圧の100Ωを9V電池につないでみた。※危険なので良い子のみんなは真似しないように!(`・ω・)
なんと、数分で300度以上の温度になった。これ以上は温度計の性能により測定できない。テーブルが若干焦げた。
その後、電圧をかけ続けたものの抵抗が焼き切れることはなかった。そもそも電池の発熱がひどくなったのでやめた。公称では1%誤差内の抵抗の値も3%ほどの狂いが生じた。少しの時間なら耐圧オーバーでもすぐに壊れないことが分かったが、基本スペックは守ったほうがよさそうだ。
ところで電池の発熱は、電池内に抵抗があることを示している。内部抵抗rってやつだ。そして電池の内部抵抗が安全装置になっているとも言える。つまり一定以上の電流は内部抵抗のおかげで流れることはないのだ。もし電池に内部抵抗がなかったとしたら、オームの法則に従えば、0Ωでショートしたとき電流が無限大に流れるてしまう。たとえ電池容量が限られたとしていてそれを一瞬で無限大に放出するしたとしたら?微小時間Δtにおいて無限大の電流が持つ影響力はどうなってしまうのだろうか。乾電池一個で宇宙が消滅するって話。なんの話だっけ?
電池の話に戻って、ニカドやリチウム電池など内部抵抗が低いものは、正しい回路だからこそ安心して使える。万が一ショートしてたらと思うと結構怖い。だから自作回路のデバッグには乾電池が一番なのではないだろうか?もしくはヒューズをつけるなどの対処がほしいところだ。そう言えばトランスを使った可変電源を作った時には必ずヒューズを付けていたっけ。
ディケイドボックス完成
時間を忘れて製作に没頭していた。眠い、疲れがどっと出ている。
見た目は、まぁこんなものでしょう。配線やラベリングをもう少しキレイにしたい気もするが、実験用道具としては必要十分な感じだ。
それにしても抵抗値の数パーセント以内の精度には感心する。50個の抵抗を直列に繋いでも数パーセント以内に収まっている。 実は、同時にコンデンサのディケイドボックスも作ったが、静電容量に関しては結構アバウト。そもそもコンデンサは10%近くの誤差が含まれるからだと思う。また、コンデンサに溜まった電荷を逃す装置を付けないとダメだったことを後から気づいたので、コンデンサのディケイドボックスはお蔵入りに。
しかし、抵抗のディケイドボックスは今後の電子工作で大活躍していくことになる。皆さんもディケイドボックス、作ってみてはいかがだろうか?
リメイク版 DECADE RESISTOR
ディケイドボックスを使ってみて分かったことだが、ハイインピーダンス回路での実験だとノイズを拾いやすい。ケーブルやシャーシの背面が隙だらけだからだろう。 そこでディケイドボックスをリメイクしてみた。ステレオミニを採用した。GND線はシャーシとアースし、LRを可変抵抗の信号線とした。 モジュラーエフェクターと同様に、320mm x 120mmのボックスに納めた。 ステレオミニをブレッドボードに変換するために、メスジャックとジャンパワイヤーを使って写真のようにアダプタを作った。