ファンクションジェネレータの製作|矩形波・三角波・正弦波発振器
こんなこと、やります。
- 矩形波発振回路の説明
- 三角波発振回路の説明
- 正弦波発振回路の説明
- ファンクションジェネレータの製作
矩形波発振器
矩形波発振器の解説を行います。
矩形波発振器とは
矩形波発振器とは、正方形の形をした信号を発振する回路です。弛張発振器(しちょうはっしんき、Relaxation Oscillator)とも呼ばれます。 矩形波発振器はオペアンプ1つでつくることができ、安定して発振するので、非常によく使われる回路です。
矩形波発振器の回路図
こちらが矩形波発振器の回路になります。9V電池などの単一電源で動作できるように設計しました。
発振周波数の計算
矩形波発振器の発振周波数は次式で計算できます。
$$f=\frac{1}{C_tR_tln(\frac{1+k}{1-k})}\tag{1}$$ただし、
$$k=\frac{R_2}{R_1+R_2}\tag{2}$$とします。
発振周波数を計算してみよう
上の回路図の定数を元に、実際に発振周波数を計算してみましょう。
\(R_2\)は2つの100kΩの抵抗の並列合成となりますので、50kΩとします。
よって、kを計算しますと、1.39となります。式1に代入すると、
$$f=\frac{1}{1.39C_tR_t}\tag{3}$$です。
ここでたとえば、\(C_t\)を0.1μとした場合、135Hz〜2.2kHzの間で周波数を変化させることができます。
\(R_t\)のボリューム抵抗を1Mなどの大きな値にすれば、もっと大きな幅で周波数を変更できます。ただし、実際にやってみますと、周波数が高くなるにつれて周波数のコントロールがしづらくなります。ですから、可変しやすさを考えますと、可変抵抗の大きさは50kΩ程度がよさそうです。
また、\(C_t\)を変えることで、周波数は大きく変わります。可変可能な周波数帯域を大きく変える場合は、ロータリースイッチなどで\(C_t\)を切り替えられるようにするとよいでしょう。
基板制作、モジュール化
この回路を元に、基板を制作し、モジュール化してみました。このようにすると、ブレッドボード上で扱いやすくなります。のちに紹介するファンクションジェネレータへこれを搭載します。
はじめての発振器製作として矩形波発振器は、簡単で安定動作するのでおすすめです。部品数も少ないので、初心者の方でも作れるでしょう。LFOのような超低周波から(\(C_t=10uF\)とかにする)、高周波の信号テスターとして幅広く使えます。
LFOとは
ところでLFOとは、Low Frequency Oscillatorの略で、超低域の周波数を発振する発振器のことです。具体的には0.1Hz〜20Hzあたりの、人間の耳には聴こえない帯域の周波数で利用されます。信号の形もさまざまで、正弦波、三角波、矩形波をはじめ、ノコギリ波、パルス波、階段波などの変わった波形も使われます。 とくに、シンセサイザーやエフェクターの世界でよく使われます。フェイザーやトレモロ、オートワウ、リングモジュレータ、ワウ、パン、遅延素子など、さまざまな音色を作り出すことに欠かせないのがLFOです。
コンデンサと周波数
回路図の\(C_t\)の値を変えて、周波数測定してみました。その結果を次の表に記します。発振周波数の設計などにお役立てください。
Ct [F] | 可変周波数 [Hz] |
---|---|
100u | 0.13〜2.08 |
10u | 1.6〜24.2 |
1u | 14.3〜212 |
0.1u | 147〜2.1k |
0.01u | 1.44k〜18.2k |
1000p | 12.5k〜91k |
周期が7秒ほどの超低周波から、20kHzあたりまでの矩形波が作れれば、音響用の発振器としては十分でしょう。
三角波発振器
三角波発振器の解説を行います。
三角波発振器とは
三角波発振器とは、その名のとおり三角形の波形をした信号を発振する回路です。音色的には、矩形波が「ブー、ビー」といった音にたいし、三角波はもう少し穏やで澄んだ音色になります。ちょうど矩形波と正弦波の間のような音色がします。 三角波と似たものに、ノコギリ波というものがあります。ノコギリの形をした波形ですの信号で、鋸歯状波(きょしじょうは)やランプ波とも呼ばれます。 ノコギリ波はバイオリンの擦弦楽器の音色に近い音です。馬の毛についた松ヤニで弦をひっかくことをイメージすれば、バイオリンの音がノコギリ波に近くなるのも頷けますね。
三角波発振器の回路図
こちらが、三角波発振器の回路図になります。
発振周波数の計算
三角波の発振周波数はR1、R2、R3、Cの値によって決定されます。周波数は次式で計算が可能です。
$$ f = \frac{R_2}{4CR_1R_3} $$ですから、先ほどの回路図では、R1の可変抵抗によって三角波発振器の周波数を変えられるようになってます。実際、この回路図の定数を使うと、数Hzから数kHzの間で周波数が変わります。可変抵抗を1MΩなどの大きい値にすれば、もっと低い周波数を作り出せます。
また、この回路は矩形波発振器の応用回路になりますので、前段のオペアンプの出力からは、キレイな矩形波を得ることもできます。
基板制作、モジュール化
三角波発振器をモジュール化して2つ作ってみました。
製作したモジュールの出力をオシロスコープで確認すると、写真のようにキレイな三角波形が得られます。
三角波発振器で演奏?
この2つの三角波発振器を使って、テルミンのような合奏演奏!?をやってみました。こちらの動画の後半で演奏を見られます。 三角波発振器(LFO)つくってみた - YouTube
動画の前半は、モジュール基板の制作のようすです。配線の設計から銅基板のエッチング、ルーターによる穴あけ、はんだ付けなどの作業を、タイムラプスで撮影しました。下手な映像でアレですが、チェコアニメーションぽさを感じていただければ幸いです(笑)
また、この三角波発生器をつかって、トレモロやリングモジュレータ効果を実験してみました。詳しくは 低周波で使えるAM変調回路(トレモロ・リングモジュレータ) や、下記YouTubeをご覧ください。 トレモロ・リングモジュレータの電子工作 - YouTube
正弦波発振器
正弦波発振器の解説を行います。
正弦波発振器とは
正弦波信号を発振する回路です。理想的な正弦波は、基音のみの周波数になりますから、倍音や他の周波数成分を一切含みません。歪み率も限りなくゼロになることが理想です。
いろいろな正弦波発振器
正弦波を発振する回路として有名なところに、コルピッツ発振やブリッジドT型、 クワドラチャ、ウィーンブリッジといった発振回路があります。
それぞれ実際に回路を組んで試しましたが、どれもキレイな正弦波をつくることができました。 ですが、キレイな正弦波を維持したまま周波数を変えようとすると大変です。どれも上手くいきませんでした。 この問題にずいぶん悩みました。 その後、三角波をソフトリミッターで加工して、正弦波を作り出す回路に辿り着きました。その回路をこれからご紹介します。
ソフトリミッターによる正弦波発振器
こちらが、ソフトリミッターによる正弦波発振器の回路図になります。
回路図は前段のソフトリミッター回路と、後段の増幅回路に分かれてます。三角波発振器の部分は省略されてますので、実際には、先ほど解説した三角波発振器の出力を入力して使ってください。 ソフトリミッター回路は、オペアンプの教科書でよく見かけるものです。
回路図の解説
ソフトリミッター回路
ソフトリミッター回路の動作は次のとおりです。 R1とR2、またはR3とR4で分圧された電位より出力信号が大きくなると、それぞれのダイオードがオンになります。実際はダイオードの順方向電圧もプラスされます。ダイオードがオンになると、R2またはR4はフィードバック抵抗の一部となりますから、Adjusterフィードバック抵抗の100kΩと並列合成の形を作って、増幅率が下がります。よって、入力信号にリミッターをかけることができるのです。
回路図内の定数ですと、R2とR3の電圧幅が約200mVになります。それとダイオードの順方向電圧0.6Vを足しあわせて、約800mVあたりでリミッターがかかる設計になってます。
R1とR2、またはR3とR4の抵抗値の比を変えることで、リミッターをかける基準電圧を変えることができます。また、反転増幅回路の増幅率を変えることで、リミッターのかかり具合を変えることができます。ですから、100kΩの可変抵抗はリミッター調整用として機能します。入力した三角波が正弦波に近づくよう、できるだけ歪みが少なくなる位置に可変抵抗を調整します。
反転増幅回路
リミッター回路は反転増幅なので、出力の位相は入力に対して反転します。それだと都合が悪そうなので、後段のオペアンプで、もう一度反転増幅回路で正転に戻してます。 また、47kΩと100kΩの抵抗で約2倍に信号を増幅してます。三角波をクリップして正弦波をつくると、元の三角波よりも音量が小さく感じてしまいます。そこで、2倍ほど増幅してあげることで、三角波と正弦波のレベルを揃えることができます。
カップリングコンデンサ
入力と出力に、100uFという大きなカップリングコンデンサを使いました。これは、LFOなどの超低周波の入力を想定しているためです。DCの信号の入力も考えられますので、無極性のコンデンサを使用しました。 だだし、100uFが大きすぎるためでしょうか、電源をオンにしてから安定した正弦波になるまで少し時間がかかってしまいます。ここら辺は用途に合わせて変えてみてください。
実際の波形
こちらが、三角波からソフトリミッター回路で正弦波を作った出力波形のようすです。元の三角波と、出力の正弦波を比較してます。
「正弦波っぽい」波形になりました。さきほどの計算通り、800mVあたりでリミッターがかかっているようです。ですが、これは三角波が約1Vppだったからこのような結果が得られました。入力信号の大きさが異なる場合は、リミッターの基準電圧を調整してください。
調整の仕方としては、実際に三角波を入力し、出力波形のようすを見たり、音を聞きいて「なるべく単純な音」になるようAdjuster抵抗を調整します。 「正弦波っぽい」と述べたとおり、理想の正弦波には程遠いです。ですが、LFOなどの用途に使うのでしたらこれでも十分です。
ソフトリミッターとオーバードライブ
ところで、ソフトリミッター回路のR2とR3を0Ωにしたらどうなるでしょうか? 残ったR1とR4は電源を等分しているだけなので、それも取り外してしまいます。
すると、下図のオーバードライブエフェクターの回路図とよく似たものになることが、分かりますでしょうか?
上の回路図は オペアンプ1石で作るオーバードライブ【自作エフェクタ製作】 で使ったものです。実は、オーバードライブ回路は、ソフトリミッター回路を応用したものであるといえます。
オーバードライブでも正弦波がつくれる?
オーバードライブでも正弦波がつくれそうだと思い、実験してみました。 三角波をオーバードライブ回路へ入力し、ゲインなどを調整しますと、次のような波形ができました。
リミッター回路と同じように、オーバードライブ回路でも正弦波をつくることができました。 ただし、オーバードライブ回路の場合、三角波の入力信号を小さめにしないとダメでした。その点、リミッター回路ならば、入力信号の大きさに合わせて基準電圧を変えられるので設計はしやすいですね。
他にも正弦波をつくる方法として、英語の記事ですがこちらが参考になります。 Tim Stinchcombe-Tri to sine conversion
基板制作、モジュール化
ソフトリミッター回路の部分を基板制作して、モジュール化してみました。この後、ファンクションジェネレータの製作で、三角波発生器とドッキングさせていきます。
ファンクションジェネレータの製作
ファンクションジェネレータを制作してみました。
ファンクションジェネレータとは
ファンクションジェネレータ(function generator)とは、正弦波や矩形波、三角波、さらにはランプ波やノイズ波などの任意の波形を発生できる信号発振器です。まさに、数学の関数(Function)といった感じです。 用途としては、機器のテスト信号として使ったり、低周波信号の実験に使われたりします。オシレータとも呼んだりします。
昔はアナログの電子回路でしたが、近年ではディジタル化されたものが一般的なようです。
これからつくるファンクションジェネレータの仕様
これからつくるファンクションジェネレータの仕様は、主にLFO用途で周波数0.16Hz〜1.6kHzの範囲のものを作ります。今までに解説した正弦波、矩形波、三角波発振回路、モジュールを組み合わせて作っていきます。
ちなみに、ファンクションジェネレータは電子工作で人気のようで、こちらのようなキットも販売されてます。
ファンクションジェネレータの回路図
ファンクションジェネレータの回路図をご紹介します。いままでに説明してきた正弦波、矩形波、三角波発振回路をご覧になった方でしたら内容は理解しやすいです。
回路図の解説
ファンクションジェネレータの回路図の内容を簡単に解説します。
矩形波・三角波発振器
上段のオペアンプ4558が、三角波と矩形波を同時に発振する回路となります。 発振周波数は、R1・R2・R3・Ctの値で決定されます。
$$ f = \frac{R_2}{4C_tR_1R_3} \tag{4}$$実際には、回路図内の可変抵抗の100kΩもR1として含まれますのでご注意ください。可変抵抗には、高精度で多回転式のヘリポット(ヘリカルポテンショメータ)を使用します。
また、Ctのコンデンサによって周波数レンジを大きく変えることができます。今回は、トグルスイッチによって、0.047μFと470pFの切り替えができるようにしました。トグルスイッチの代わりにロータリースイッチを使えば、コンデンサの種類を増やせますから、もっと広帯域の変調が可能になります。
プラスマイナス両電源
回路図内の右上にあるのが電源部分です。この回路は両電源のプラスマイナス12Vで動かします。2連スイッチで電源のオンオフを実現してます。2つの10μFのコンデンサは、電圧変動を安定させるためのものです。
ところで、式4を使ってこの回路の可変可能な周波数を計算しますと、0.16Hz〜1.6kHzとなります。 0.16Hz、つまり周期6秒ほどの超低周波まで発振するため、出力のカップリングコンデンサをいっそのこと取り外してしまいました。 またここまで低周波ですと、電源変動が大きくなり、他の機材と同じ電源を使ってしまいますとノイズの悪影響を及ぼします。ですから、ファンクションジェネレータに専用の電源を設けるのはよいことでしょう。
ツェナーダイオードで出力信号の制限
さて、プラスマイナス12Vで動作しますと、私の用途では出力が大きすぎて使いづらいため、ツェナーダイオードのよるリミッター回路を入れてます。2つの2Vツェナーダイオードがそれで、出力信号はVpp=2Vに制限されます。ツェナーダイオードの前に入っている1kΩの抵抗は、ツェナーダイオードによる過電流を防止するためのものです。
ソフトリミッター回路
下段のオペアンプ5532は、ソフトリミッター回路です。三角波をクリップし、擬似的な正弦波を作り出します。ソフトリミッター回路については、先ほど解説しましたので省略します。 5532以外のオペアンプを使ってもらってもまったく問題ありません。
ファンクションジェネレータの製作
回路図を元に、ファンクションジェネレータを製作してみました。写真のように発振器回路とソフトリミッター回路を分けてつくりました。ソフトリミッター部分は他の関数発生回路に置き換えることでアップデートが可能となります。
こちら写真のモジュールは、私が勝手に規格しているラックマウントできるエフェクター、 モジュラーエフェクタ というものです。モジュラーシンセに近いですが、ラックのサイズなどは独自規格です。ホームセンターで手に入りやすい部品、サイズでつくってます。
後日談
回路の電源として使ったのはA23の12V電池でした。しかし、ちょっと使用しただけで大きく電圧降下が起こってしまいました。最初は12Vあっても、ほんの数十分で8Vまで下がってしまいました。そのため、しばらくすると発振が止まってしまいました。ソフトリミッター回路を取り外すと、三角波と矩形波は安定して発振するのですが。 この原因が、電源によるものなのか分かりませんが、9V電池を2個使った電源へ変えることにしました。
またこの回路は、単一電源の抵抗分圧による仮想GNDでも動作しそうです。しかし、実際に10kΩの抵抗でバイアス電位を作って動作させたところ、超低周波で矩形波が歪んでしまいました。電流が追いつかないせいです。バイアスの分圧抵抗を小さくすれば電流を増やせますが、今度はアイドリング時のムダ電流が大きくなってしまいます。 一番良いのは、AC100Vからトランスを使って両電源の安定化電源をつくるのがよさそうです。電源問題は、とくに低域の周波数特性を良くしたい場合に、とても重要な要素になりますね。勉強になりました。