オペアンプ1石で作るオーバードライブ【自作エフェクタ製作】
こんなこと、やります。
- オペアンプ1石でオーバードライブを作ってみる
- オーバードライブ動作原理を詳しく解説
はじめに
この記事では、自作エフェクターのオーバードライブの作り方をご紹介します。
やること
これからご紹介するオーバードライブは、オペアンプ1石で作れるとてもシンプルな電子回路です。オペアンプの非反転増幅回路をベースに、ダイオードを使ったクリッピング回路で歪みを作っていきます。 また本記事ではオーバードライブの回路図だけでなく、動作の原理をくわしく解説してます。理解しながら自作エフェクターを製作してみたい方におすすめの内容です
オーバードライブとは
オーバードライブ(overdrive)とは、元々はギターアンプなどでゲインをあげた時に、過大な増幅で出力音が歪んでしまう状態のことをいいます。つまり、オーバードライブは「酷使」や「過負荷」の意味があります。 その後、1970年代に、意図的にオーバードライブを作り出すエフェクターが登場します。最初はゲインやボリュームなどのノブを持たないものでした。ただし、Maestro FZ-1 Fuzz-Toneや Fuzz Face 、Big Muffといったファズは、1960年代から作られてます。
ディストーション型
1970年にディストーション型のMXR Distortion +が登場します。ディストーション型は、オペアンプで増幅後、ダイオードでクリッピングさせる方式です。
非対称クリッピング型
1977年に発売したBOSSのOD-1では、オペアンプの帰還回路にクリッピングダイオードが挿入されます。また、ダイオードの個数や種類を非対称にすることで、より多くの倍音を得ることを狙ってます。
対称クリピング型
1979年に、IbanezのTS-808 チューブスクリーマ登場します。BOSSのOD-1と同様、クリッピングダイオードは帰還回路に挿入されますが、組とするダイオードは同じもので対称になります。非対称型くらべ、素直な歪が得られます(個人的感想)。 この記事で紹介するオーバードライブも、チューブスクリーマのような対称クリピング型になります。
つかうもの
この記事で電子部品を紹介します。なお、エフェクタケースやフットスイッチ、ジャックなどは、このページの末尾で紹介してます。
オペアンプ
オペアンプはTL072をおすすめします。TL072はFET入力型のオペアンプで、入力インピーダンスが高く、高周波特性も優れてます。また何より、安価で手に入りやすいです。4558でもかまいませんがクリーントーンで鳴らす時、若干こもりがちになります。
ダイオード
シリコンダイオード1N4148を2つ使います。小信号用ダイオードであれば代替可能です。
また、ゲルマニウムダイオードに置き換えると、歪具合がガラッと変わりますのでおもしろいです。余裕のある方は、シリコンとゲルマニウムの両方で音の違いを聴き比べてみてください。
可変抵抗
100kΩのBカーブ可変抵抗を1つ使います。
抵抗
1k x 2、100k x 1、1M x 2の1/4W固定抵抗を使います。カーボン抵抗でも金属皮膜抵抗でもかまいません。
コンデンサ
フィルムコンデンサ:0.1u x 1、電解コンデンサ:10u x 1、100u x 1を使います。
自作オーバードライブ回路
オペアンプ1石で作れるオーバードライブ回路図がこちらになります。このオーバードライブ回路を「Overdrive One」と命名させてください。ギターはもちろん、ベースでも使えます。
回路図の左側が、オーバードライブの歪み音を作るエフェクター回路となります。 巷のオーバードライブ回路を調べると、大半がこのような回路図になってます。ギターやベースでそのまま使えるように定数を定めました。
一方、右側は安定したバイアス電圧を作る回路です。バイアス回路は、分圧抵抗で作ることも可能です。
市販のオーバードライブの核の部分は、大抵このような回路になってます。
オーバードライブ回路図の解説
さて、ここからは回路図をさらに詳しくみていきましょう。
入力インピーダンス
エフェクター回路では、ギターやベースなどのハイインピーダンス出力の楽器が入力につながります。そのため、エフェクターの入力インピーダンスは高く設計するのが一般的です。ここでも、入力インピーダンスが高い非反転入力を使ってい、ハイ受けを実現してます。 入力にある2つの抵抗の並列合成値が、この回路の入力インピーダンスになります。つまり、入力インピーダンスは500kΩです。ピックアップの出力インピーダンスは数百kΩですので、これで問題ありません。
非反転増幅回路
オーバードライブ回路のメインは、いわゆる非反転増幅回路です。 非反転増幅回路では、RsとRfの2つの抵抗で増幅率が決められます。その増幅率の計算は次のとおりです。
$$A=\frac{Rs + Rf}{Rs}$$ここで、「Overdrive One」の回路をもう一度みてみましょう。
「Overdrive One」では、100kBの可変抵抗と、直列に繋がっている1kΩの抵抗の合成抵抗値1kΩ〜101kΩがRfとなります。また、Rsは1kΩですから、先ほどの増幅率の計算式に当てはめると、1〜102倍までの増幅率変化になります。 ただし、Screamスイッチは短絡されているものとします。
ダイオードのクリッピング回路
次に、ダイオードによるクリッピング回路の動作を説明します。 オペアンプのイマジナルショートを考慮すると、オペアンプの非反転入力(3番)と反転入力(2番)はショートしてます(オレンジの注釈)。よって、反転入力(2番は)1MΩの抵抗を介して、バイアス電位に落とされます(青の注釈)。交流信号において、バイアス電位は仮想GNDです。また、出力信号がダイオードの順方向電圧(Vf)を超えると、それぞれのダイオードがオンになります(赤の注釈)。よって、ダイオードのVfを超えた出力信号は、バイアス電位へ落とされ、出力信号がクリップされるわけです。
歪みの大きさを変えるには、ダイオードによるクリップ具合を変えます。その歪みのコントローラーが、100kΩの可変抵抗(Gain)であります。「Overdrive One」では、可変抵抗1つで、クリーンな音から複雑な歪みまでを実現します。
▼ イマジナルショートについて詳しく知りたい方は、これらの書籍が参考になります。
Screamスイッチ
フィードバック抵抗Rfに接続されている「Screamスイッチ」を説明します。 このScreamスイッチは、いわば、さらに過激に歪ませるためのスイッチです。 Screamスイッチが短絡の状態では、先に述べたとおり、最大101倍までの増幅率に制限されました。一方、Screamスイッチを開放にすると、Rfは絶縁された状態になります。このことは、Rfが無限大の抵抗であると考えることができます。したがって、次の計算のとおり、理論上は無限大の増幅率を得ることができます。
$$A=\frac{Rs + \inf}{Rs}={\inf}$$もちろん、現実的に信号が無限大になることはありません。ですが、このScreamスイッチの開放によって、激しい歪みが得られることは確かです。音色の印象としては、ディストーションやファズに近くなります。 また、Screamスイッチを開放するとオペアンプが発振し、叫んだような音が鳴ります。これを面白がって、わざと発振させたままにしました。そういうわけで「Screamスイッチ」なのですが、オペアンプを発振させたくない場合は、2つのダイオードと並列に10pFほどのコンデンサを入れれば、落ち着かせることができます。
ハイパスフィルタ
最後に、100uのコンデンサCの役割を説明します。 このコンデンサは、一種のハイパスフィルタの効果をもたらします。
交流信号におけるコンデンサの特徴として、高い周波数になるほど抵抗値が下がり、低い周波数になるほど抵抗値が上がる性質があります。また、コンデンサの容量が大きいほど、低い周波数帯域の信号を通しやすいです。 仮に、コンデンサCの交流的な抵抗をRcとします。 回路図では、RsとRcは直列に繋がってます。ですから増幅率Aは次式で表されます。
$$ A = \frac{Rs + Rc + Rf+1k}{Rs + Rc}$$高音域では、Rcはゼロとみなすことができますが、低音域ではRcは無視できません。よって、周波数が低くなるにつれてRcが大きくなるので、増幅率Aは1に収束します。このことからハイパスフィルタ(ローカットフィルタ)と同じような効果が得られます。
もしも、ギターを弾いた時に重低音が気になる方は、コンデンサCの容量を小さくしてみてください。
また、コンデンサCを省略すると、ダイオードのオンオフが激しくなり、音を伸ばした時に不自然に聞こえてしまいます。そのため、コンデンサCは省略しないようにしてください。
自作オーバードライブの製作
自作オーバードライブ「Overdrive One」を作るに当たって、銅基板でエッチングして、回路を組み立てました。ここでは、製作のようすをご紹介します。
基板製作
手書きで回路の配線を作成しました。パズルのような感じで、合理的な配線にむけて何度かやり直します。
▼ 銅基板にレジストペンで配線を書き、液化第2鉄液で銅を腐食させて基板を作ります(エッチング作業)。ルーターで穴をあけて、背の低い部品からはんだ付けします。
▼ 基板制作に必要なモノ
▼ 可変抵抗は、ジャンパワイヤを使ってホットボンドで固定しました。このままエフェクタケースに入れられるように、スイッチの配置など考えてます。
以前制作した NPNシリコントランジスタで作る!Fuzz Face|2SC1815とBC108で自作エフェクター もそうでしたが、歪み系エフェクターは、周囲のノイズを拾いやすいのでケースに入れてしっかりシールドすることをおすすめします。
オペアンプの入れ替え
また、オペアンプを取り替えられるように、ソケットを取り付けてます。最初は4558で試しましたが、クリーントーンの音抜けがわるかったので、TL072を使ってます。
いろいろなオペアンプを試して、自分好みのサウンドを見つけてみてください。オペアンプによる音色の違いは オペアンプの音質比較 5種類+1 一番音質が良いのはどれか!?〜究極のナチュラルサウンドを求めて、その3 に書きました。
5532の入力インピーダンスが低いため、1Mの抵抗を入れても100k程度になってしまうからです。どうしても5532を使いたい場合は、前段にFETなどでバッファー回路を設けましょう。 バッファー回路の作り方は もっとも簡単なFET1石バッファー回路〜究極のナチュラルサウンドを求めて、その4 をご覧ください。
モジュラーエフェクタ
「Overdrive ONE」は、 モジュラーエフェクタ としてラックマウント可能にしました。これ一台あれば、幅広い用途に役立ちそうです。オールインワンなオーバードライブという意味も込めて「Overdrive ONE」と名付けた次第です。
さいごに
今回作った「Overdrive ONE」はなかなか実用的な楽しいオーバードライブに仕上がりました。ゲインを絞ったときはクリーントーンになりますので、バッファーエフェクターやブースターのような使い方ができます。また、ゲインを中にすると 金管楽器のようなベースファズを作ってみた|Bass Brass Fuzz|自作エフェクタ製作 で作った音色に近づきます。
さらに、ゲインを大にすれば、いわゆるオーバードライブらしい歪みが得られます。 そして、Screamモードに切り替えた瞬間「過激な叫び」が得られます。もはや、オーバードライブといった雰囲気は存在しません。その叫びに「喜び」!?を感じるのであれば、ぜひScreamスイッチを省略せず付けてみてくださいね。