管楽器のようなベースファズ【自作エフェクタ製作】
この記事では、管楽器のような音色を奏でる自作エフェクタのベースファズをご紹介いたします。トランジスタ1石だけを使った、超カンタンなファズ回路です。ベース専用というわけではないのですが、ベースにエフェクタをかけるとトロンボーンのような音色に変化して楽しいです。そんなわけで「Bass Brass Fuzz」と名付けることにしました。電子工作初心者の方でもカンタンに作れる回路だと思うので、ご参考になさってみてください。
管楽器のような音色のベースファズ回路
こちらが管楽器のような音色を奏でるベースファズ「Bass Brass Fuzz」のエフェクタ回路図になります。
管楽器のような音色のベースファズ「Bass Brass Fuzz」回路図
BLランクのトランジスタ
汎用的なトランジスタ2SC1815を使用しました。ただし、増幅率の高いBLランクのものを使っています。
▼ トランジスタの電流増幅率hfeについては、こちらの記事をご参考になさってみてください。
まろやかな歪み、ゲルマニウムダイオード
回路図の2つのダイオード1N60は、ゲルマニウムダイオードです。シリコンダイオードでも動作はしますが、その音色はずいぶん違ってしまいます。
シリコンダイオードですと、ザラついた歪みになり、いかにも歪んでますといわんばかりのエフェクターになってしまいます。一方で、ゲルマニウムダイオードですと、ザラつきは目立たず、自然でまろやか音色になります。管楽器のようなナチュラルな音色を目指す上では、ゲルマニウムダイオードが必須です。
ダイオードのクリッピング回路
ダイオードに電圧をかけると、電圧降下が起きるのですが、順方向に電流が流れているときに降下した電圧のことを順方向電圧(Vf)と呼びます。シリコンダイオードの場合、一般にVfは0.6V程度ですが、ゲルマニウムダイオードの場合はVfが0.3V程度と低めになっています。
よって、ダイオードに音の信号(電圧)をかけると、Vf以上の電圧はカット(クリップ)され、音が歪むというわけです。
また、ダイオードには極性があり、電流は一方向にしか流れません。プラスマイナスの両方をクリップするためには、2つのダイオードを逆向きに並べる必要があるわけです。このような回路を、クリッピング回路やクリッパ回路などと呼びます。
▼ ダイオードによるクリッピング回路は、オーバードライブやディストーションに欠かせません。こちらのオーバードライブ回路でもダイオードを使用してますので、ご参考になさってみてください。
自己バイアス回路
「Bass Brass Fuzz」回路は、自己バイアス回路です。
自己バイアス回路は、コレクタの出力の一部(入力信号とは逆相)が負帰還抵抗を介してベースへ戻ります。このフィードバックにより、温度安定性が高く、また周波数特性がよくなるという特徴があります。ただし、自己バイアス回路では入力インピーダンスは下がります。
自己バイアス回路のインピーダンスの低さは、あとあと問題があることに気づきました。そのことについては、記事の後半で触れます。
ハイカットフィルタ
管楽器のような音色のベースファズ「Bass Brass Fuzz」回路図
負帰還抵抗に入っているコンデンサの役割は、高音成分を除去するハイカットフィルタの働きをします。数十pFから0.1μFのあいだで音を聴きながら検証し、最終的に0.022μに決定しました。
電子回路のモジュール化
銅基板をエッチングして、ファズ回路を写真のようにモジュール化してみました。こうすると、ブレッドボードに刺せるため実験しやすいです。
自作ベースファズの性能
ここでは、先ほどの作った自作ベースファズ「Bass brass Fuzz」の性能をご紹介したいと思います。
消費電流
制作したモジュールの消費電流を測定すると、わずか710μA(0.71mA)でした。9Vアルカリ電池(006P)の容量は、500mAhくらいといわれてますから、理論上なんと、704時間も動かすことができる計算になります。市販のエフェクターのバッテリー消耗を考えてみると、今回のファズ回路はかなりエコなエフェクタとなります。
Bass brass Fuzzの試奏
▼ さきほどの「Bass Brass Fuzz」モジュール通して、ベースを試奏してみました。こちらのリンク先で、その音源を聴くことができます。
パッシブベースの出力から、「Bass Brass Fuzz」へつなぎ、DIを通して録音しています。管楽器らしさを出すために、録音後にすこしだけリバーブをかけています。
いかがでしょうか?トロンボーンのような金管楽器の音色に聴こえませんでしょうか?
ジャコパスのようなフレットレスベースの音色を感じる方もいらっしゃるかもしれませんね。バンド向きのエフェクタではありませんが、ソロベースとして使えそうです。なかなか楽しいエフェクターができました。
より金管楽器の音色に近づけるコツとして、フロントピックアップを絞りぎみにして、リア寄りを指弾きするといいでしょう。
▼ ちなみに、フレットレスベースに改造したアコベなら、さらにトロンボーンに近づくかもしれません。そのうち試してみたいと思います。
楽器の出力インピーダンスに注意
ご紹介したファズ回路ですが、実は非常に低い入力インピーダンスであることが分かりました。そのため、アクティブベースだと音色がだいぶ違ってしまいます。一方でパッシブベースですと、良い意味で音が劣化してくれて、金管楽器のような音色が作れたわけでした。本来、前段にバッファを設けるべきですが、そうすると回路の定数をはじめから考え直す必要がありますので、またの機会にします。
トロンボーンの音色と周波数特性の比較
トロンボーンのサンプリング音と、先ほどのベースファズ「Bass Brass Fuzz」の音を使って、それぞれの周波数特性を調べて比較してみました。こちらがそのグラフとなります。
グラフの中の青丸が基音で、緑が2倍音、黄が3倍音になります。トロンボーンの音には2倍音がおおく含まれることが分かりました。ここら辺の倍音のバランスが、金管楽器の音色の秘密なのかもしれません。
トロンボーンの音色の秘訣
パッシブベース、つまりハイインピーダンス出力なベースをこのファズ回路へ入力すると、入力側のカップリングコンデンサによって低音域がカットされてしまってたわけです。しかし、そのことがある意味、トロンボーンの音色に近づけるの秘訣となったようなのです。
先ほどの周波数特性の図で、「Bass Brass Fuzz」のG1、D1では基音より2倍音の方が強くなっており、トロンボーンの2倍音の関係と似ているのが分かります。
ベースの場合は、出力インピーダンスが高かったために低域がカットされ、基音より2倍音が強くなったといえるでしょう。そしてこのことが功を奏し、トロンボーンの音色に近づく結果になったのではないかと考えています。
だとしたら、基音より2倍音を強調させてあげれば金管楽器の音色に近づけることができる!?▼ 2倍音が得意な回路に、差動増幅回路がありました。そのうち実験してみたいと思います!