理想ダイオード(Precision Rectifier)回路

理想ダイオード(Precision Rectifier)回路
理想ダイオード(Precision Rectifier)回路

理想ダイオードとは、順方向電圧(Vf)が0Vで動作できるダイオードである。

1Vppのうような小信号を整流したい時、通常のダイオードだと順方向電圧(Vf)が高すぎる。例えば、Vf=0.6Vのダイオードを使ったとしたら、1Vpp信号では半分の電圧にならないとダイオードがオンにならないため、期待通りの動作が難しくなる。 もちろん、エフェクターのオーバードライブやディストーションのようにわざとクリップさせたいのなら話は別。

シリコンダイオードと理想ダイオードの半波整流
シリコンダイオードと理想ダイオードの半波整流

そこで、理想ダイオードを使えば図のように0Vからキレイに整流できるのだ。 しかし、現実にはそのようなダイオードは存在しないため、オペアンプで理想ダイオードを実現している。英語では「Super Diode」とか「Precision Rectifier(精度のよい整流器)」と呼ばれる回路である。

Precision Rectifier Schematic
Precision Rectifier Schematic

回路図の前段が、理想ダイオード回路である。基本は反転増幅回路となっていて、Rfの値を変えればゲインを持たすこともできる。 この理想ダイオード回路の出力インピーダンスは非常に高いため、次に繋ぐ回路によっては理想ダイオードの特性が大きく崩れてしまう。よって、バッファー回路が必須となる。 後段のオペアンプが、そのバッファーの役目となっている。非反転増幅回路なので、出力インピーダンスを下げつつゲインを調整できるようにした。Rfに100kΩの可変抵抗を使えば、A=1〜10の間で増幅できる。

ところで、このオペアンプ回路は単一電源(片電源)で動かす想定となっている。 理想ダイオード回路をモジュール化したい時に、バイアス電位をカットするカップリングコンデンサが必要になる。そうすると、せっかく半波整流した信号がコンデンサ以降では0Vを中心とした交流信号になってしまう。

クランプ回路で信号を0V以上に持ち上げる
クランプ回路で信号を0V以上に持ち上げる
そこで、最後に置いてあるダイオードによって出力信号の下限を0Vまで持ち上げている。 この回路はクランプ回路(Diode Clamper) と呼ばれるものだ。ここにはシリコンダイオードでなく、Vfの低いゲルマニウムダイオード(1N60)を使おう。ゲルマニウムの方が、下限が0Vにより近くなるからだ。 その他のダイオードは、小信号用のシリコンで構わない。

オシロスコープで半波整流波形を観察
オシロスコープで半波整流波形を観察
実際に、理想ダイオード回路を組んで正弦波を半波整流してオシロスコープで観察してみた。写真のように、元の波形を0Vを中心にキレイに半波整流できていることがわかる。若干電位が0Vより下になっているが、これはクランプ回路の精度の問題である。

理想ダイオードは、色々な実験で役立つが、これを歪み系のエフェクタとして使っても面白いかもしれない。その場合は、クランプ回路のダイオードを外して、オペアンプの前段にバッファー回路を挟もう。この回路の入力インピーダンスが47kΩと低いためだ。ギター用のバッファー回路はこちらの記事を参考に。

信号の片側だけスパッと切られているので、シリコンやゲルマニウムダイオードを使ったクリップ回路とはまた違った歪みが得られる。印象としては「爽やかな」歪み。

また、この理想ダイオードを応用して、0Vを中心とした理想的な全波整流回路も作ることができる。この回路は絶対値回路と呼ばれており、それを利用して以前にエフェクターのオクターバの実験をやってみたので、良かったらこちらの記事も参考に。

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