LM386で自作ヘッドホンアンプを作ってみた

LM386で自作ヘッドホンアンプの製作
LM386で自作ヘッドホンアンプの製作

この記事では、LM386を使った自作ヘッドホンアンプの作り方をご紹介します。 LM386は、乾電池などの低電圧で動かせるオーディオのパワーアンプICです。ヘッドホンだけでなく、小型なスピーカーくらいならLM386で動かせちゃいます。少ないパーツでオーディオアンプを作ることができるので、電子工作初心者の方でも簡単に作れます。

LM386の名前が変わり、NJM386BDの名前で売られていることもあります。どちらも同じように扱えますのでご安心ください。この記事ではNJM386BDを使ってますが、あえてLM386と呼ぶことにしてます。

はじめに

1W程度のスピーカーを鳴らすことができる高出力なアンプ「LM386」を使用します。ほんのわずかな部品でアンプ回路が実現できるので昔から人気のある素子です。ヘッドホンアンプとして使う場合は、ステレオですので2つ必要になります。

本記事では、回路の基板もエッチングで製作してます。

▼ こちらの商品のように、すでに基板に実装済みのLM386モジュールを検討なさっても良いかもです。

▼ こちらはオペアンプ5532を使ったヘッドホンですが、必要な部品はすべてセットになってますので電子工作初心者の方でも楽しく作れます。

▼ やっぱり電子工作はめんどくさい方や、もっと高音質なヘッドホンアンプがほしい方は、こちらのような製品をご検討してみてはいかがでしょうか。

LM386でヘッドホンアンプの製作

それでは、オーディオアンプLM386を使った自作ヘッドホンアンプの作り方を説明していきます。

LM386の端子配列

まずは、 LM386の端子配列 を確認します。

LM386の端子配列
LM386の端子配列

端子番号記号
1GAIN
2-INPUT
3+INPUT
4GND
5OUTPUT
6V+
7BY PASS
8GAIN

図のとおり、ひとつのLM386に増幅回路は1つしか含まれてません。ステレオヘッドホンアンプにするためには、LM386の素子が2つ必要になります。

今回のヘッドホンアンプでは、電源に9V電池を使用します。

また、LM386は1Wほどの出力が出ますので、小型なスピーカーなら十分に鳴らすことができます。音質はともかく、 缶詰でつくるギターアンプ!(かんづめ386) のような事もできます。

ヘッドホンアンプの回路図

こちらが今回つくったヘッドホンアンプの回路図です。 LM386のデータシート を参考に設計しました。画像をクリックすると拡大できます。

LM386ヘッドホンアンプ回路図
LM386ヘッドホンアンプ回路図

いくつか注意点を補足します。 まず、LM386の非反転入力(2番端子)は使わないのでGNDへ落とします。

また、カットオフ周波数を数Hz以下にしたいので、入力のカップリングコンデンサを10μF、出力のカップリングコンデンサを1000μに設定してます。カップリングコンデンサの値が小さいと、オーディオ信号の低音がカットされてしまうので注意しましょう。 LM386の出力につながっている0.047μと10Ωは発振防止のために必要です。10Ωの抵抗には大きな電流が流れるので、1Wの抵抗を使用しました。 抵抗の最大消費電力については 抵抗のヲタクな話し〜初心者のための電子工作 をご覧ください。

発振防止の回路は「ゾーベル・ネットワーク」と呼ばれるものです。スピーカーなどにおいて周波数が高くなるほどインピーダンスが肥大化し無限大となるため、その周波数帯域では負帰還量が多くなるため発振しやすくなるのだと思われます。ゾーベル・ネットワーク回路を入れることで高周波でのインピーダンスを下げ、発振を抑えられるようです。

ボリュームの可変抵抗は 10kΩAカーブ を使用してください。人間の聴覚に近い音量変化を行うには、リニアに変化するBカーブではダメで、対数変化するAカーブの可変抵抗が必要です。

ヘッドホンアンプの製作

回路図を元に、 カット基板 に書き込むための配線を設計します。実はパソコンを使わずに手作業で設計するのはこれがはじめてです。一発で配線を考えるのは至難の技ですので、失敗しながら少しずつ詰めてきます。基板に書き込むときはトレーシングペーパーを使うのですが、裏表が逆にならないように注意します。

基板の配線設計
基板の配線設計

トレーシングペーパーに書き込んだ配線図を元に、穴あけ部分にポンチなどで基板に印をつけ、ピンバイスで穴あけしました。ただ、このピンバイスの穴あけ作業が苦痛でたまりません。後の電子工作では、 PROXXONのミニルーター を使って穴あけを行うようになりました。このほうが断然ラクです。

ピンバイスで基板の穴あけ
ピンバイスで基板の穴あけ

銅を残す部分を レジストペン で描いていきます。レジストペンは、塗るというよりは盛る感じです。

レジストペンで配線を盛る
レジストペンで配線を盛る

腐食液やエッチング液 と呼ばれれる二酸化第二鉄液で、銅を腐食していきます。腐食液はすこし温めたほうが(35度〜40度)、銅の腐食がはやく済みます。

二酸化第二鉄液を温め、銅を腐食する
二酸化第二鉄液を温め、銅を腐食する

15分〜30分ほどで腐食が完了します。その後、基板を水洗いして 工業用アルコール でレジストペンのインクを取り除きます。

アルコールでレジストペンのインクを除去
アルコールでレジストペンのインクを除去

小さい部品からはんだ付けし、 バッテリーコネクタステレオミニジャック を配線します。

部品をはんだ付けして実装する
部品をはんだ付けして実装する

最後に、基板をケースにおさめて完成です。LM386で作った自作ヘッドホンアンプのできあがりです。

基板をケースにおさめてヘッドホンアンプの完成
基板をケースにおさめてヘッドホンアンプの完成

狭いケースでしたが、すべての部品がキレイに収まってほっとしました。この自作ヘッドホンアンプは、ポケットにも入るようなコンパクトなサイズです。

自作ヘッドホンアンプとSENNHEISER HD25
自作ヘッドホンアンプとSENNHEISER HD25

ヘッドホンアンプに使った電子部品とまったく同じではありませんが、比較的リーズナブルな値段で使えそうなものを次に紹介します。

お得な電子部品パーツ

基板制作に便利な道具

おすすめのヘッドホン

ところで、私が愛用しているヘッドホンは SENNHEISERのHD25 です。このヘッドホンのインピーダンスは70Ωで、軽くてとても使いやすいです。耳をしっかり密閉してくれるので遮音効果も抜群、モニターヘッドホンにぴったりです。今までベイヤーやアシダボックス、ソニーの名器と呼ばれるヘッドホンを使ってきましたが、今はSENNHEISER HD25が一番のお気に入りです。

▼ ちなみにスピーカーは、ALTEC 604-8Hを使った自作スピーカーを使用してます。

▼ Raspberry PiをAirPlayサーバー化して、WiFi経由でオーディオを鳴らせるように環境構築してみました。

▼ NJM386BDでギタースピーカーも作ってみました!

ヘッドホンアンプの音質

自作ヘッドホンアンプを使って、さっそく音楽などを試聴してみました。ヘッドホンアンプを通すと、あきらかに音のパワフル感が増します。音量ではなく、感覚としてのパワフル感なんです。iPhoneのイヤホン出力も、ヘッドホンアンプを通したほう生き生きとして聞こえるから不思議です。苦労して作ったかいがありました。

ただし、このヘッドホンアンプには欠点があります。というか、LM386の欠点ですね。それは、無音時のヒスノイズが大きいことです。ヒスノイズは「サー」っという小さな音です。不快なノイズではないので気にしなければ気にならないのですが、このヒスノイズはどうしても消すことができないようです。なので、LM386を使う場合はこの点だけご注意ください。

あとがき(2023年3月30日)

最近、マスタリングなどに定評のあるオープン型のヘッドホン「ゼンハイザー HD 600」を購入しました。このヘッドホンは300Ωとインピーダンスかなり高いため、オペアンプを使った簡易的なヘッドホンアンプや、モバイルなどのイヤホンジャック出力ではうまくドライブできません。しかし、LM386なら1Wほど出力があるため、十分にHD 600を鳴らすことができました。また、HD25や一般的なヘッドホンを使うと気になっていたヒスノイズも、HD 600だとほとんど気になりません。ヘッドホンのインピーダンスが高いからなのでしょうか?

あとがき(2023年7月7日)

その後、LM386(JRC386BD)を使用して改めて一からヘッドホンアンプを製作しました。

HEADPHONE AMP 386
HEADPHONE AMP 386
HEADPHONE AMP 386
HEADPHONE AMP 386
HEADPHONE AMP 386
HEADPHONE AMP 386

バッファーエフェクターモノラル出力をステレオに変換 し、このヘッドホンアンプを通してゼンハイザーのHD 600でベース練習してました。LM386は1Wくらいの出力は出ますので、HD 600などのインピーダンスの高い(300Ω)ヘッドホンでも十分にドライブできます。

自作ヘッドホンアンプのおすすめ書籍

高音質なヘッドホンアンプを作りたい方はこちらの本をご覧ください。

▲ こちらの本では、トランジスタを使ったディスクリートのヘッドホンアンプが紹介されてます。バッファー回路や増幅動作の仕組み、A級動作、高音質化などなど貴重な情報が満載で、大変わかりやすく解説されてます。ただでさえヘッドホンアンプ書籍は少ない中、この本の著者は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病の中で執筆されているそうです。とてもありがたい一冊となります。

▼ このような本もあります。1石数千円もするMUSEシリーズのオペアンプを使用したヘッドホンアンプ製作です。

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