【自作マイクへの道⑤】ECMをファンタム電源で動かす!
こんなこと、やります。
- ECM(エレクトレットコンデンサマイク)をファンタム電源で動かす
- ECMカプセルのシールド対策
- バランス出力(平衡回路)のECMを作る
ECMの基本回路(おさらい)
ECM(エレクトレットコンデンサマイク)は、ひとつ数十円から数百円程度で手に入る高音質なコンデンサマイクです。小型な形状のなので、ラベリアマイク(ピンマイク)やモバイル端末でよく使われてます。
ECMを実際に使うときは、下図のように外部から電圧を供給して使います。ECMの種類にもよりますがECMの両端にかかる電圧は、1V〜10V程度の範囲になるように+VsとRLを設計します。
低電圧でも駆動できるため、スマホのイヤホンジャックから供給されるプラグインパワー(約2V)で動かすことができます。
詳しくはこちらの記事で解説してます。
プラグインパワーとファンタム電源の音質比較
プラグインパワーでのマイク制作は、使うのも作るのも簡単で便利です。しかし、プラグインパワーの電圧はわずか2V程度です。実は低い電源電圧ですと、ECMの性能をフルで発揮しきれません。つまり、プラグインパワー駆動のECMは音が悪いというのが、経験上の認識です。ECMの耐圧に注意しながら、ギリギリの10V程度の電圧でECMを駆動してみてください。高域が立ち上がり、驚くほどクリアなサウンドになります。実際に音質比較した動画を収録しましたのでぜひ、ご覧ください。
ECMのファンタム電源化(アンバランス出力)
それでは、ECMを+48のファンタム電源で駆動させる方法をご紹介します。これから紹介する内容は、こちらの記事を大いに参考させていただきました。 DIY Microphone: EM172 Capsule and XLR Plug « The View Up Here
ECMのファンタム電源供給回路
ECMをファンタム電源で駆動させるためには、次のような回路で実現可能です。ただし、この回路はアンバランス出力であることにご注意ください。
「アンバランス出力だとノイズ拾いやすいんじゃないの?」と思いますが、シールド対策をしっかり行えばほとんど問題ありません。とくにECMカプセルの部分のシールド対策が重要になります。シールド対策のやり方は後半で解説します。 そもそも、シールド対策をしっかりしていないのに、いくらバランス出力してもノイズを拾ってしまいます。また、今回紹介する回路図は、ご覧の通り部品数がとても少なくて済みます。コンパクトさとシンプルさにおいて、これ以上の回路は存在しないでしょう。 どうしてもバランス出力のマイクが良い方は、参考になりそうな回路を作ったので記事の最後でご紹介いたします。
さて、図❶は「正極側が正相となるエレクトレットマイク」のための回路図になります。一方で「バックエレクトレット方式のECMは負極側が正相」です。バックエレクトレットECMを使う場合は、次の回路図を参考にしてください。
バックエレクトレット型ECMのファンタム電源供給回路
図❶も図❷もほとんど同じ回路図ですが、HOTとCOLDの位置が異なります。これらの位相の問題はとても重要で、複数マイクを使ったときにそれぞれのマイクの位相が合ってないと、大きなトラブルの原因になります。少しややこしいですが、お使いになるECMの位相をデータシートなどでよく確認してください。
回路図の解説
それでは回路図の解説を行います。 回路図のRの値は、ECM端子間が10V程度になるように設定します。秋月電子通商で手に入るWM-61A相当品の場合ですと、47kΩの抵抗を使うと約10Vに設定できます。 カップリングコンデンサは、出力先の入力インピーダンスが600Ωまでを考えて10uFに設定しました。このときカットオフ周波数は26.5Hzになります。また、ファンタム電源は48Vですので、50V以上の耐圧のコンデンサを使うようにしてください。
フォーリーフのEB-H600を使う場合は、バックエレクトレット型のECMですので図❷の回路図で組みます。ECM端子間が10V程度になるようにRを設定すると、150kΩほどの抵抗が必要になります。 この記事ではフォーリーフのEB-H600を使って、ファンタム電源供給のピンマイクを作っていきます。フォーリーフのECMは秋月電子通商で購入できます。 EB-H600はバックエレクトレット型ですが、EC-H600は通常のエレクトレット型になりますのでご注意ください。詳しくはフォーリーフのサイトでデータシートをご確認ください。 ECM | Four-Leaf
もちろん位相の問題と抵抗Rを適切に設定すれば、他のECMでも同じように制作できるはずです。
音響機材について
当然ですが、本記事で制作するマイクを使うには、ファンタム電源を供給できる音響機材がないといけません。私は、ZOOMのH5というハンディレコーダを使ってます。自転車配信の際に自作のピンマイクを使いますので、H5を自転車のトップチューブにマウントしてます。台座は3Dプリンタで自作です。また、スポンジを中間にはさんで振動吸収対策してます。さらに、マジックテープで脱着できるようにH5の底を改造してます。
このZOOM H5は、2chのXLRコネクタを装備しており、ファンタム電源供給が可能です。ローカットフィルタやリミッター、コンプレッサーといった機能も備わってます。また、オーディオインターフェースになることも可能で、スマートフォンに接続してライブ配信機材としても使えますのでおすすめです!
ファンタム供給ECMピンマイクのつくり方
それでは実際に、EB-H600を使ってファンタム供給できるECMピンマイクを作ります。
ECMカプセルの加工
マイクケーブルとECMをはんだ付けし、φ2mmの熱収縮チューブで絶縁します。 マイクケーブルは、秋葉原のTOMOCA電気で購入した、モガミのφ約3mmの2芯ケーブルを使用しました。ほどよい柔らかさと耐久性を備えていて、ピンマイクにピッタリのケーブルです。
次に、ECMカプセルを絶縁するために、φ7mmの熱収縮チューブをかぶせます。ECMの負極とアルミカプセル導通しているため、シールド用の銅箔を被せるには絶縁が必要になります。
銅箔でマイクを覆い、マイクケーブルのシールドの撚り線と接触させます。
このようにしっかりECMの周りをGND電位に落とし、シールドします。
さらに、φ7mmの熱収縮チューブで銅箔が動かないようにします。
XLRコネクタの加工
次に、XLRコネクタ側の作業になります。回路図の通り、抵抗とコンデンサを間違えないように配線しましょう。
お金に余裕があればノイトリックのXLRコネクタがおすすめです。ネジを使わずに分解できますし、見た目もカッコいいです!
マイクケーブルが細すぎるので、スーパーXを根本に充填して固定しました。また、根本にも熱収縮チューブを少しまいて、マイクの色と合わせて識別しやすいようにしました。
こんな感じで、EB-H600を使った2つのピンマイクをつくってみました。 2つマイクを使えば、LRのステレオ収録にしたり、モノミックスで音量バランスを整えたりできます。左右の襟にそれぞれのピンマイクを付けて、自転車配信で遊んでみます。
ちなみに、自転車配信では風切対策としてCOMICAのウィンドジャマーを使ってます。また、ピンマイクを使う場合はクリップを使用します。
▼ ウィンドジャマーの自作も可能です。
【おまけ】アンバランス・バランス変換ボックス
実は山水のST-71のトランスを使って、バランス出力のピンマイクも作りました。しかし、アンバランス・バランス変換ボックスが少し大きいため、自転車配信の現場では使いづらくお蔵入りになってしまいました。先に説明したとおり、マイクカプセル部分のシールドをしっかり施せば、アンバランス回路でも滅多なノイズを拾うことはありません。とはいえ、せっかく作ったアンバランス・バランス変換ボックスなので、この記事で紹介します。
こちらがその回路図です。バックエレクトレット型のEB-H600を使うために設計したものですので、通常のECMを使う場合はトランスの3番と5番を逆にしてください。 RLの値はECMの両端電圧が10V程度になるように設計してください。 600Ωトランスの高負荷をドライブするために、5532のようなオペアンプが必要です。
個人的にはオペアンプに2114を使うのがおすすめです。5532よりもクリアな音質で、MUSE01と引けを取りませんでした。そして値段も安いので、2114が手に入るようでしたらぜひ試してみてください。
下の写真のように3Dプリンタ作ったケースに入れてみました。その後、ケースのシールド対策としてアルミテープを貼ってます。また、ECMはステレオミニ化して入れ替えられるようにしてます。
▼ ケースのモデルはThingiverseで公開してます。