【エフェクタ製作】原音とエフェクト音をミックスする「BLENDER」・ハンドメイドプロジェクト
この記事では、ギターやベースの原音とエフェクト音をミックスできる「BLENDER」という自作エフェクターの作り方や動作原理をご紹介いたします。BLENDERはたとえば、ファズ音と原音をミックスしたい時や、リバーブ音と原音の割合を調整したい場面などに重宝するエフェクターです。
BLENDERの記事は人気があるようで、これまでに多くの方からアクセスいただいております。衝動的に作ったV1(バージョン1・冒頭の写真 2020年頃の製作)をはじめ、2023年現在ではV2を制作しております。記事前半ではV1の製作を紹介し、記事後半では改良版のV2を紹介してますのでぜひ最後までご参考いただければ幸いです。
BLENDER(ブレンダー)エフェクターとは
改めてBLENDERのエフェクト機能をおさらいしておきます。下図は、この記事でご紹介するBLENDERの役割をイラストで表したものです。
BLENDERはエフェクターといっても、BLENDER自体には積極的に音を変える機能は備わってません。あくまで外部エフェクタと原音のミックス作業を行う音響機材です。
市販品だとBOSSのラインセレクターLS2が似たような機能を果たします。ただしLS2は外部エフェクタをA/Bの2チャンネルも繋げることができ、ミックス機能だけでなく、A/Bボックスの役割もある多機能なエフェクタです。原音とエフェクト音のブレンドというよりは、原音にAとBの音を足し算するといった使い方になります。
ここから紹介するBLENDERは、原音とエフェクト音のバランス調整に特化したよりシンプルなものです。
BLENDER V1
回路図
下図はBLENDER V1の回路です。オペアンプは4558を指定してますが、入力インピーダンスが数M以上のオペアンプと入れ替え可能です。たとえばTL072など。
BLENDER V1の回路では原音のミックスだけでなく、位相反転の機能も付けてあります。エフェクターによっては位相が反転してしまうものがあります。その場合に、位相反転されたエフェクト音と原音をブレンドしてしまうと音が打ち消しあってスカスカなサウンドになってしまいます。そういった時に位相反転ができると便利というわけです。
回路の性質から原音ミックスだけでなく、パラレル出力として使ったり、バッファアンプとしてもご利用いただけます。
前段、バッファー回路
簡単に回路図の説明をしておきます。まず、前段のオペアンプはバッファ回路です。ギターのハイインピーダンス出力を受けることができるように、入力インピーダンスを500kΩになるように設計されてます。
位相反転回路
後段(下段)のオペアンプが位相反転機能を担ってます。反転増幅回路を使用した増幅率1倍のバッファ回路です。実際に組み立てるときは、非反転信号の「SEND NORMAL」と反転信号の「SEND INVERTED」をトグルスイッチで切り替えられるようにしました。
バランサー回路
BLENDERのブレンド機能を担うバランサー回路部分が下図です。
バッファー回路を通した原音(左側からの信号)と、エフェクターから返ってきたRETURN信号を100kBの可変抵抗でミックスさせてOUT出力としてます。ただしこの回路の注意点として、SEND先のエフェクタ機材の入力インピーダンスが十分に高いことを想定してます。そうでないと原音に影響してしまい、バランスボリュームがほとんど効かなくなるのでご注意ください。現代のエフェクタならほぼ問題はないかと思いますが、オールドエフェクタなどには入力インピーダンスが低いものが多く存在します。その場合には、BLENDERと送り先のエフェクタの間にバッファエフェクタをはさむと良いでしょう。 また、完全には原音とエフェクター音を切り分けることはできない回路設計です。ただしBLENDERの用途からして、そこまで厳密な要求はないものと考えてこれで良しとしました。原音とエフェクト音を完全に切り分けた改良版は、後半の記事のV2で解説いたします。
仮想GND(バイアス電源)回路
下図の回路は、9Vの単一電源でオペアンプを動作させるために作る仮想GNDです。9V電圧を10kΩの抵抗2つで分圧し、中間の電圧を仮想GND(バイアス)としてます。並列に入っているコンデンサは、バイアス電位を安定させるためのものです。
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製作の様子
最初はタッパーで組み立てました。しかし近くの電化製品ノイズを拾ってしまうため、アルミダイキャストのケースに納めました。アルミダイキャストの穴あけはステッパードリルで、その後ラッカー塗装しましたが上手くいかず。。
内部回路はユニバーサル基板を使って配線、今思うとかなりテキトーな配線でした。POTのシャフトが長かったので金鋸でカットしました。ボディーとつまみの隙間が狭くなって見た目がマシになります。
手作り感が満載で傷だらけですが、できたてホヤホヤのBLENDER V1です(笑)
BLENDER V2
回路図
下図がBLENDER V2の回路図です。
V1にあった位相反転切り替え機能はありません。その代わり、高性能なオペアンプ5532を使って原音忠実な回路になっており、エフェクト音と原音を完全に分離可能です。SEND先のエフェクターは、入力インピーダンスが高く、出力インピーダンスが低いことを想定して余計なバッファ回路をできるだけ省略してシンプルに仕上げてます。接続先が現代エフェクターであれば、ほぼ問題なく正常に動作すると思います。
ミキサー回路
BLENDERの肝であるブレンド部分は、回路中央部の10kΩ周りです。 巷の回路 を参考に反転増幅回路で実現させました。ミキサー回路とT型アッテネータを合体させたような回路です。
出力段
U1Aで位相が反転するので、さらに反転させて正相に戻すためにU1Bでインバータ回路を設けてます。RV1のPOTは、実際に組み立てるときのフットスイッチによるバイパス信号との音量差を調整できるようにするためのボリュームです。
製作の様子
BLENDER V1の製作から約4年後に作ったBLENDER V2です。当時と比べると、エフェクタの完成技術はだいぶ身につきました。アルミダイキャストへの塗装は諦め、ラベルシールで印字して仕上げています。穴あけはボール盤やテーパーリーマーを駆使してラクに加工できるようになってきました。
▼ 使用した工具類
電子回路はKiCADを使って設計し、基板はトナー転写とエッチングで完成させてます。はんだの種類や線材の太さ、電子部品も研究により品質とコストのバランスが取れたものを使えるようになりました。